
先日はマルチニクのクラリネット奏者Alexandre Stellioさんをピック・アップしましたが、今回は同じクラリネット(時にはサックスも)奏者のMichel Godzomさんが伝統と革新を見事にミックスさせた1990年に発表したアルバムを。。。
この人の作品は以前国内盤で「マルチニークの哀愁」というタイトルのCDが発売されていましたが、そちらの方はタイトルに相応しく、ビギン魂そのままにビギンやワルツ、マズルカといったクレオール音楽をストリングの伴奏を従えてまるでブラジルのショーロの如き優雅さあふれる演奏で披露していましたが、この作品では当時流行だったズーク(というよりはKassav’)を意識したような鮮やかなシンセと共にスピード感あふれるマズルカ・クレオールやビギンを聴かせてくれます。無論本流であるゆったりとした横揺れするような感覚を忘れることなく、あくまでもクレオール音楽としての基礎を踏まえてのズーク的な解釈であろうと思われますが、それは形は違えどもKaliが表現しようとしていたマルチニクに生きる人間の根っこのようなものをMichel Godzomさんもまた求めていたためではないかと思います。
一時期ズークがブームになり、この周辺の音楽ではこぞってDX-7の煌びやかな音色を使った強烈なダンス・ミュージックが隆盛を極めたのですが、それも一過性のもので長続きせず、ズークそのものがまろやかな感触のものに変貌していったことを思えば、Kassav’の功罪は良くも悪くも大きいとしか言えないのですが、その彼ら自身「Majestik Zouk」で原点回帰を目指したのですから「Vini Pou」が世界に与えた衝撃はまさに熱病のようなものだったのでしょう。Michel Godzomさんも流行りの音を使ってみました!という程度でこのアルバムを作ったのではないかと感じるのですが、その極彩色のシンセ音の根底にはアフロ的な要素が潜んでいたり、心地よいパーッカションや女性コーラスが響くといった具合にあくまでも自身のルーツには忠実な演奏を繰り広げています。
彼の奏でるクラリネットの響きはA.Stellioさんのように野趣あふれるものではなく、かぎりなく繊細でノスタルジックなもので、どこか心の琴線に触れるものがあるのです(A.Stellioさんの音とは別次元という意味です)。