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不条理音盤委員会 667 Orthodox Celts 「One, Two,... Five」
- 2009/09/14(Mon) -
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たまにはケルトでもやるかぁ~~!
というわけでアイリッシュ・トラッドとケルト文化をこよなく愛するセルビア人のグループOrthodox Celtsが昨年発表した5枚目のアルバムです。日本にもケルトなトラッドを演奏するバンドがいるので、セルビアで同じようなコンセプトを持っても不思議ではなく、彼らの他にもTir na n'Ogや Irish Stew of Sindidun laterといった同系統のバンドがセルビア国内外で活躍しています。彼らは1992年に結成され、フロントマンの Aleksandar PetrovićさんとヴァイオリニストのAna Đokićさんをメインに初期はアイリッシュのトラッド曲をそのまま演奏していたようですが、次第にロック志向を強め、同時にオリジナリティーを追求するようになり、最近のアルバムでは収録曲の殆どをAnaさんが書きあげるようになってきたようです。Celtic Rockといえばこの方面ではやはりThe Poguesの名が挙げられますが彼らもThe Poguesをリスペクトしているとはいえ、音的にはThe Pogues程雑食性に富んでいるわけではなく、正当なトラッドを十分咀嚼した発展形としての極めて端正なフォーク・ロック風のサウンドに仕上がっていると思います。
このアルバムでも静かに感情を抑えたヴォーカルが深い味わいを覚える「Fields of Athenry」以外は彼らのオリジナル曲なのですが、トラッドで聴かれる曲の形式やリズム使いをバンド名の通りオーソドックスに応用したアンサンブルとAleksandar Petrovićさんの多少くぐもっているようなハート・ウォーミングな歌声はやはり心が和みます。またフィドルやホイッスル、マンドリンの音の配置に工夫がされていて、音響的な奥行きを広く感じさせることによってさりげない雄大さを連想させてくれるところにも心地よさを覚えます。元気いっぱいに疾走するナンバーがややカントリー・タッチに傾くのも計算のうちでしょう。本当に飾り気というものを感じさせない素直でストレートな一枚だという印象があります。

試聴音源はこちらから
http://www.emusic.com/album/Orthodox-Celts-One-Two-Five-MP3-Download/11321912.html



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不条理音盤委員会 664 Ara Dinkjian 「Peace On Earth」
- 2009/09/08(Tue) -
先日某所で開催された地場産品フェアで「中には何杯もお代わりしている人も」というキャプションでまぬけ面を天下に曝してしまった片桐と言います。
無料の鍋振る舞いだったとはいえ、そんなにお客さんもいなかったし、何より美味しいからお代わりしているのにさぁ~~(涙)。
それに「何杯も」とか言われるけどあれは2杯目……(-。-) ボソッ。

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と、いうわけでアメリカ系アルメニア人のAra Dinkjianさんの昨年出たライブ・アルバム。彼といえばもちろんエスノ・ジャズ・ユニットNight Arkのメンバーであり、Eleftheria Alvanitaki姐も歌った名曲「Dynata Dynata」の作曲者でもあることで知られていますが(というか、未熟者の片桐はそれしか知らなかったりして…汗)、今回のこのアルバムではJerusalem Oud Festivalでのライブ音源のようでAra Dinkjianさんの弾くOudにギリシャ系のSokratis Sinopoullos(Kemanche)、チュルク系のTamer Pinarbasi(Kanun)、アラブ系のRimon Haddad(Bass)、ユダヤ系のZohar Fresco(Percussion)というインターナショナルなメンバーで、各地域のトラッドを彼独自の解釈を交えながら自由に演奏しています。どの曲でもそれぞれの楽器の音色を存分に生かした美しく華麗なアンサンブルが披露されていて、それぞれのフレーズに寄り添うように一つの曲を紡ぎ上げていく様は、各奏者が持っている超絶的なテクニックにあるのは言うまでもないのですが、お互い同士をリスペクトしあった結果の産物でもあろうと思います。そして、それはこのライブのメンバーそのものが多国籍であって、またタイトルから容易に推測されるとおり平和を祈念しての演奏であり、声高にメッセージを掲げるのではなく、まさに自分の出来ることを通して地道に平和を訴えていくという方針に帰結していくものなのだと思います。まさに「異文化への理解」というタームをそのまま表現したアルバムではないでしょうか?

で、やっぱAra Dinkjianさんといえば「Dynata Dynata」でしょう。。。。



試聴音源はこちらから
http://cdbaby.com/cd/aradinkjian2

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不条理音盤委員会 652 「Morris On」
- 2009/08/01(Sat) -
我が有能たるアシスタント美由紀ちゃんが髪を切った。
いままでとは変わって前髪もパッツンと揃えたスタイルに変貌したのですが、見事なまでの黒髪ということもあってどうも市松人形っぽい雰囲気が感じられます。で、そんな美由紀ちゃんを見ていて思い浮かんだ言葉が「座敷童子」。洋服を着ている座敷童子がいるかどうかは不明ですが。。www。。。

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と、いうわけでブリティッシュ・トラッド界に燦然と輝く一枚「Morris On」でございます。
Fairport Conventionを脱退したAsley HutchingsがBarry Dransfield(Vo、Fiddle、G)、Dave Mattacks(Dr、Per)、John Kirkpatrick(Vo、Button Accordion、Concertina)、Richard Thompson(G)、Bert Cleaver(Pipe)といった面々に奥方のShirley Collinsを加えたこのアルバムは英国に伝承されているモリス・ダンスをロック的に解釈するという試みの下に制作されました。元々Fairport在籍中からブリティッシュ・トラッドに急速に傾倒していたAshley Hutchingsだったのですが、その学究肌の真面目一本さと遊び心が満載という両極端なこのアルバムは思う存分に英国古層を掘り返して現代に甦らせたという意味でも画期的だったという感があります。
 フィドルのソロから始まる楽しさいっぱいの「Morris Call」から、もうこの方面好きな人は踊りだしたくなるような気分でいっぱいでしょうが、続く「Greensleeves」でステップ踏んで盛り上がった気分をアカペラの「The Nutting Girl」で落ち着かせて、John Kirkpatrickが大活躍のメドレー「Old Woman Tossed Up In A Blanket/Shepherds’ Hey/Trunkles」で煽られたかと思うと、Shirley Colinsの可愛らしい歌声が印象的なバロック風にも聴こえるアレンジの「Staines Morris」で肩すかしを食らわせられ、モリス・ダンスのメドレー曲「Lads A’Bunchum/Young Collins」、リコーダーのソロ曲「Vandals Of Hammerwich」、Shirley Colinsのアカペラから飛び跳ね系ジグに移行する「Willow Tree/Bean Setting/Shooting」、哀愁漂う歌声にフィドルが陰影を演出する「I’ll Go And ‘List For A Sailor」、気取った英国紳士をついつい思い浮かべてしまう「Princess Royal」、伝統曲をアカペラ~フォーク・ロック風にアレンジした「Cuckoo’s Nest」、エンディングを飾るゆったりとした「Morris Off」まで、ユーモア感覚あふれるAsley Hutchingsとその仲間たちの演奏による罠に嵌ってひたすら飛び回らなくてはならないアルバムになっています。まさに一度曲が始まれば蜘蛛の糸に絡められてしまった如くジグ~モリス・ダンスの魔法にとらわれてしまい、ついにはブリティッシュのみならずアイリッシュやスコティッシュにまで手を伸ばしかねない禁断の一枚なのでございます。

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不条理音盤委員会 616 Tiger Moth 「Howling Moth」
- 2009/03/03(Tue) -

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The Old Swan BandのRod Stradling(メロディオン)、JumpledsのJon Moore(G)、English Country Blues BandのMaggie Holland(B)、F-Root誌の編集長でもある Ian Anderson(Slide Guitar)、それにHijaz MustaphaことBen Mandelson(ブズーキ)など、知る人ぞ知るカントリー・ダンス・バンド系列のAll Stars的な存在だったTiger Mothの1989年の2ndアルバムです。伝統曲のメロディーにケイジャンやテックス・メックス、アフロに東欧風味などなど、まさにやりたい放題の全編フォークダンス趣味全開のダンス・チューンはまさに極楽至極の快感度100%でして、手堅くも軽快な演奏に「Two Steps To Heaven」といった境地に陥ってしまって、この世に戻ってこれなくなってしまうのでありますよ~~。
Ben Mandelsonの趣味丸出しともいえる東アフリカのベンガ・ビートを借用した「Slow Benga」、Jon Mooreのお得意のレゲエ・タッチの「Smolleh」「Conquer Your Galsses」、スカ+ポルカの「Polka Volta」、東欧風味の哀愁メロに米国南部の土臭さをふりかけた「Olympia」、バンジョー、フィドルも使ったテックス・メックス風も楽しい「The First Wife」、タイトルからブルゴーニュのトラッドと思われる曲を賑やかにアレンジした「La Bastrinque」、スイングっぽい軽快な「Gone With The Lind」、キャバレー・ソング風の「Flor Marchita」、Ben Mandelsonをおちょくったタイトルも愉快な「Mustapha’s Home Scottische」、ハイライフ的なギターが絡み合っていくズークっぽい感覚の「Moth To California」、最後は奇妙にもニュー・エイジっぽい雰囲気の「Sestrina」までお遊び的な感覚で次々と繰り出されるメロディーに体が自然と動いてしまってしゃあないのでありまして、さすがに錚々たる面子が集合したと感嘆せざるを得ないアルバムなのであります。最近またメンバーが結集して再びこの極楽サウンドを演りはじめたようなので新譜にも期待十分です。

アルバムそのもの試聴音源はありませんが、myspaceで彼等の雰囲気だけお楽しみください。
http://wwwyspace.com/worldofmoth



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不条理音盤委員会 603 Maddy Prior and June Tabor 「Silly Sisters」
- 2009/02/06(Fri) -
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STEELEYE SPANの歌姫Maddy Priorさんと、当時無名の新人でこの作品をきっかけにブリティッシュ・トラッドを代表する歌い手となったJune Taborさんという二人の1978年の歴史的なデュオの1stアルバムです。伸びやかな高音を聴かせるMaddyさんとアルトの深い味わいを持つJuneさんという対照的な個性をもつ歌声の持ち主がMartin Carthy、Danny Thompson、Nic Jones、Andy Irvineといったブリティッシュ/アイリッシュの名手と共に作り上げたこのアルバムはまさにトラッドという共通基盤のもとでの高いテンションと緊張感そのままにじっくり練り上げた素晴らしい作品になっています。
メロディオンとバンジョー、フィドルの演奏も軽やかな「Doffin' Mistress」、二人の息がぴったりと合った無伴奏の「Burning Of Auchindoon」「Four Loom Weaver」、パイプの響きも鮮やかな色どりを添える「Lass Of Loch Royal」、素朴で可愛らしいいメロディーの「The Seven Joys Of Mary」、エロチックな歌詞をサラリと歌う「My Husband's Got No Courage In Him」「The Game Of Cards」、Martin Carthyの叩くドラムも楽しげなリズムを刻む「Singing The Travels」、ジャコバイト運動に題材を得たというトラッド曲に後半は長い舞曲風の演奏が付された「Silver Whistle」、作者のCyril Tawneyの経験を反映したらしい英国海軍の船乗りの心境を歌っている「The Grey Funnel Line」、バラッド形式の「Geordie」、ウエールズのトラッド「The Seven Wonders」、冒頭にMartin Carthyの掛け声も入ったジグ風の「Dame Durdan」まで、二人の声の美しさは勿論のこと、バックを務める名手たちの演奏も含めてトラッド独特の世界を存分に味わえる、まさに魅力に満ちた全く色褪せない名作と言えましょう。これ以降ブリティッシュのアーティストはブリティッシュ・トラッドだけ、アイリッシュはアイリッシュだけを演奏するという風に局地化してしまうという意味では、トラッド黄金期の最後に輝いた宝石のようなアルバムのなのかもしれません。余談ですが、このアルバムでも聴かれる倍音で競い合うように歌う二人をアーチー・フィッシャーは「まるで犬のようだ」と評したそうです。Maddy Priorさんはそれを褒め言葉と受け取っているようですが。。。。
この二人は1988歳には「No More To The Dance」というアルバムを制作していますが、Maddy PriorさんとJune Taborさんの志向の違いがはっきりとしたらしく、これ以降二人が共演することはなくなりました。しかし、2008年のMaddy PriorさんのライブにJune Taborさんがゲストで招かれて「Four Loom Weaver」を歌いました。
その時の映像はyoutubeでどうぞ(埋め込み不可だったので別窓で開きます)。
http://www.youtube.com/watch?v=DakcxsncHfs&feature=related

試聴音源はこちらから。
http://www.amazon.com/Silly-Sisters-Maddy-Prior-Tabor/dp/B000000E76




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不条理音盤委員会 591 DÚMBALA CANALLA  「Dúmbala Canalla」
- 2008/10/09(Thu) -
どうでもいい話。
よくレコード店で一緒になるゴスロリ・ファッションのお姉ちゃんのことはたびたびネタにしてきましたが。。。
このお姉ちゃん、実は無類の麺好きなので、時々一緒に噂になっていたり新規オープンの店に食べに行く仲なのですが、そういうときに限ってめちゃ過激な服装になっているときが多く、先日もStrawberry Swichbladeのような水玉ドレスの彼女と共に某老舗の中華料理店に行ったのですが、店に入った瞬間に店内の注目を一身に浴びていたりしても、本人はいたって平気な顔で広東麺と餃子をパクついていたりするという、そんなちょっと不思議系の彼女の父親が実は地元銀行の支店長だったことを知って驚いた片桐と言います。

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と、いうわけでAmanda Wright(Voice and Accordion_)、Merce Gali(Voice and tambourine)、Daniel Carbonell (Clarinet)、Francesc Vives(Trumpet)、Oscar Zanon(Mandolin)、Paco Mendez( Double bass and Guitar)、 Jordi Herreros(Drums)というメンバーからなるスペインのカタールニャ地方のトラッド系バンドDÚMBALA CANALLAが2005年に発表したデビュー・アルバムです。実はこのアルバム、サイトを探しても品切れだったりしていたのでHPからメールで問い合わせたらメンバーの誰かが片桐のことを不憫に思ったのかCD-Rに録音してくれたものを送ってくれました(ジャケの代わりにこのメンバー写真が添えられていました。HP上にも同じ写真がアップされていますが。。。)。基本的には東欧系のクレズマー音楽をベースにしながらの歌ものとインストが交互に配置された楽しいアルバムで、スカやポルカ、あるいはスイング、ジャズといった要素を借用しながら到る所にラテン風味が散りばめられたポップで巧みなアレンジセンスとAmandaさんとMerceさんの時には早口言葉のような、そして時には情緒たっぷりの掛け合い風のヴォーカル、それに妙に郷愁をそそられるクラリネットの音色といった具合の絶妙なサウンド・ワークが光る作品になっています。もちろん、そういったレトロ&ノスタルジックな色彩に甘えることなく、全力疾走で突っ走るエネルギッシュなステージの様子などからストリート感覚のようなものも感じられます。
間もなく新作がリリースされるとのこと。ちょっとこの方面から目が離せない状況になってきました。。。。。

試聴音源はこちらから
http://www.dumbalacanalla.org/
http://www.myspace.com/dumbala


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不条理音盤委員会 583 Rare Air 「Primeval」
- 2008/09/01(Mon) -
先日、コンビニでパンを買った時の話。
何気に裏面の原材料の表記を見たら、「遺伝子組み換えの大豆を使っています」と書かれていました。このご時世では使ってないのが普通だと思っていたので、ちょっと驚きました。

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と、いうわけでカナダ出身のRare Airが1989年にリリースした5枚目のアルバム「Primeval」です。4枚目の「Hard To Baet」と共に国内盤も出ていましたので、名前くらいは知っている方も少なくないと思いますが。。。。
パイプ奏者のGrier Coppins、やはりバグパイプとフルート担当のPatrik O’gorman、ドラムとパーカッションのTrevor Ferrierというスコティッシュ系の3人に、日系カナダ人でギターとベースのDick Muraiを加えたこの4人組のRare Airは欧米のメディアでは「ケルティック・ファンク」とか「アフロ・ケルティック・ロック・ジャズ」と称されていたようですが、まさにそういった評価通りにケルト音楽の様式美を残しながらの自由な発想に基づくラジカルでフリー・ミュージック的な局面も兼ね備えた演奏を展開しています。
Dick Muraiのアグレッシヴなギターを全面的に打ち出しながらケルト+アフリカの要素が炸裂する痛快な「Fouth World Reel」、尺八風に奏でられるPatrikのフルートや、後半部のインドともケチャとも言えそうな奇妙なコーラス・ワークなどにアジア的な色彩がうかがえる「Jungle」、Rolanad Kirkの曲を大胆にアレンジしたジャズ・ムードあふれる「Volunter Slavery」、軽快なケルティック・フュージョン風の「New Swing Reel」、スイング感を重視したインター・ミッション的な「O’Grady’s Little Italy」、ファンクっぽいベースの上を各種楽器が表情豊かに舞う「Chicago Shopping Mall」、オリエンタルなメロディーにブルースっぽいフィーリングをミックスさせた「Behind The Garage」、疾走するパーカッションとチョッパー・ベースが唸る小品「Hipbone」、スコティッシュへの回帰を立体的にイメージしたような「Highland Life」、妙にドラマティックでロマンティックな展開を聴かせる「Dreaming The Other Side」まで、ある意味やりたい放題ともいえるのですが、その根底には移民の子孫であるケルトへの憧憬と都市生活者である自己との対話がしっかり成されていて、そこから生み出されるエモーションのようなものを音楽として表現したのではなかろうかと推定したりもします。いわば「生の律動」ともいうべきエネルギッシュなものを感じさせる一枚だという印象があります。

試聴音源はこちらから
http://www.amazon.com/Primeval-Rare-Air/dp/B000005CNZ

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不条理音盤委員会 560 Aberjaber 「ABERJABER」
- 2008/03/19(Wed) -
個人的に突如としてラーメンが食べたくなるときがあって、そういう場合に限って仕事がなかなか終わらずにイライラしてしまうのですが、何とか片付け終えてお目当てのラーメン屋に向かったところ、夜もいい時間なのにでら行列が出来ていて、しかもカップルばっかでめちゃ悲しい気持ちになった挙句に、実はそのラーメンそのものがあまり美味しくなかったのに加えて駐車場が営業時間を過ぎていて車も出せず、電車で帰って翌朝車のお泊り料金を支払う羽目になってしまった片桐と言います。

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と、いうわけでウェールズのトラッド・ユニットAberjaberが1985年に発表した1stアルバムです。フィドルやハーディー・ガーディー、それにウェールズ固有の民族楽器でヴァイオリンの原型とも言われるクルースが担当のStevie Wishart、独学でハープを学んだというDelyth Evansという女性2人に、フルート、バグパイプ、ボーランを担当しているPeter Staceyという男性1人からなるこのAberjaberは広くケルト文化圏にその音楽的な素材を求めているようですが、そもそもウェールズにはアイリッシュのリールのような疾走するようなチューンは存在しないそうで、彼らの音楽からは中世ルネサンスの音楽の如き煌びやかでありながら、ゆったりとした穏やかな雰囲気を感じ取ることが出来ると思います。また、単に華麗のみならず、ケルトの中でもハープの伝統が唯一守られてきた土地柄、土着的な響きの中にも幽玄さを兼ね備えた美しいアルバムに仕上がっているという印象があります。
Stevieの誕生日にPeterが贈ったというティン・ホイッスルの澄んだ響きが美しい前半と、バグ・パイプとハープ、ハーディー・ガーディーの3者が楽しげにコラボする「Hoffed Meisters Wishart/Aires De Pontevedra」、伝説の王Gruffudo Ap Cynanを題材にした優雅なトラッド曲「Diddanwch Gruffudo Ap Cynan」、タイトル通りにアイルランド、スコットランド、ブリタニィのダンス曲をメドレーしていく「Celtic Journey」、Delythが亡父の記憶に捧げたという深遠なメロディーをPeterがフルートで奏でる「Berwyn」(後半はウェールズのトラッド・ジグへとメドレー)、伝承曲のモチーフをベースにPeterが作曲したオリジナル曲とブリタニィの有名トラッド曲をミックスさせた「Three Fires/An Dro」、吟遊詩人たちの間では誰でも知っているとされる可愛らしいメロディーが幾度となく変奏を繰り返す「Cynghansail Cymru」、Stevieのオリジナル曲でケルト文化圏それぞれの独特のフレーズが織り込まれたような「Stevie’s Tune」、アイリッシュ・トラッドのハープ独奏「The Ale Woman」、ウェールズでは有名らしいダンス曲がメドレーされていく「Machynleth/Pwt Ar Y Bys/Llanofer Reel」まで本当に端正なケルト世界を垣間見ることができるような気がします。そもそもウェールズのトラッド自体日本であまり紹介されることは少ないと思うのですが、このアルバムはユーロ・トラッド・コレクションの一枚として国内盤で発売されました。そもそもこのアルバム自体、メンバーの一人であるStevie Wishartがオーストラリアのラジカル・トラッド・グループMARAのJim Denlyと結婚して以後、ユニットの存続をめぐってトラブルになったようで原盤のSein RecordsのWebにも掲載されていないという今となっては幻に近い作品になっているのです(ヤフオクやE-Bayでは比較的普通の値段で出ていますが。。。。)。
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不条理音盤委員会 553 Catherine-Ann MacPhee 「Suil Air Ais (Looking Back)」
- 2007/12/02(Sun) -
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先日、ころんさんのところでも紹介されていたCatherine-Ann MacPheeさんの1994年の1stアルバムです。
スコティッシュ・トラッドの現役女性シンガーとしては至高の存在であると絶賛されている彼女なのですが、まさにハイランドの空気をそのまま音に転化させたような清冽で澄み切った世界を、重厚な声量と独特の声質で歌い上げているというのは言うまでもなく、日本にいては想像もつかないスコットランドの厳しい自然を生き抜いてきた人々によって歌い継がれてきたスピリットがリアルにそのまま目の前に拡がってくるようで、そういった意味も含めて声の力というものを痛烈に感じるアルバムだという印象があります。
静かな雰囲気が漂うなかで透明感ある歌声を聴かせてくれる「Ho mo luran, he mo luran」、Wendy Stuartの爪弾くハープに導かれて軽やかに歌う「Mal na Mara」、パイプと寄り添うに歌う「Failte Dhruim Fionn」、無伴奏のシンギングなのに深く心にしみてくるような「Griogal Cridhe」、Tony McManusのギターも楽しげなマウス・ミュージックのメドレー「 Puirt: Ci'n Fhidheall etc」、Mairi MacIneesとの温かみを感じるデュエットが美しい「Squaban Arbhair」、クラシカルなチェロの響きが空間的な拡がりを感じさせる「A Ghaoil Leig Dhachaidh - Leannan Mo Ghaoil,」、ちょっとフォーク・ロック風に仕上げたといった感もある「Mo Chridhe Trom 's mi Seoladh」、彼女の息遣いさえはっきり聴こえてくる鬼気迫るような無伴奏シンギングの「Gaol An t-Seoladair」、アイリッシュ由来のメロディー?(The Chieftainsも演っていました)の「Am Buachaille Ban,」、先ほどとは打って変った優雅にマウス・ミュージックを歌う「Puirt : Calum Beag etc」、透明感あふれるハープと共に感情たっぷりに歌い上げる「 Mo Robairneach Gaolach」、幽玄でおごそかな印象がある「O losa Bi'n Comhnaidh」まで彼女の声を存分に味わえる作品になっているのは当然なのですが、その声をサポートしているTony McManus (guitar)、Wendy Stewart (clarsach), Neil Martin (cello)、 Iain MacDonald (flute/small pipes)、Ewen Vernal (bass)といった面々の演奏も控えめながら深く豊かな包容力を備えていて、このアルバムの美しさに淡い彩りを添えています。
寒い冬の夜に暖かくした部屋でゆったりとした心持ちで聴きたくなるような一枚です。

http://www.tradtunes.com/album_details.php?album_id=2937



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不条理音盤委員会 548 The Iron Horse 「Five Hands High 」
- 2007/10/22(Mon) -
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スコティッシュ・トラッド界隈の中でも女性パイパーというのは珍しい存在なのですが、このThe Iron HorseのAnnie GraceさんもHighland Pipeを吹く数少ない女性の一人です(Small pipeはもっと多いのですが。。。。)。この「Five Hands High」はそんな5人組の彼らが94年に発表した2枚目のアルバムで、複数のゲストを招いてトラディショナルな曲を現代風に解釈した演奏を繰り広げているのですが、パーカッションの絡ませかたや挑発的なリズムの組み合わせ方といった冒険的な要素を含みながらも、軽々と演奏をこなすその姿勢はまさに自分たち自身の固有の音を作り上げているといっても間違いないと思います。
伝統的なメロディーの背後で各種楽器が複雑なリズムを小刻みにつなげていく「The 8 Step Waltz」「The Heiress」、跳ねるようなリズムにのっていわゆる“殺人バラッド”的な歌詞が歌われる「A'Bhean Ladaich」、Annie GraceさんとLynn Morrisonさんという二人の女性ヴォーカルに幽玄的なホイッスルやパイプが彩りをそえる「This is no' My Plaid」、バンド・メンバーのSteve Lawrence氏作曲の可愛らしい曲調のダンス・メドレー「Stobieside Lodge」、やはりメンバーであるRod Paul氏作曲のフィドルとパイプが活躍するリール・メドレー「;The Rubber Man」、トラッド曲をケルティック・ロック風にアグレッシヴにアレンジした「Glasgow Peggy」、スタジオ・ライブで一発録りされたという疾走感あふれるリール・メドレー「The Linguist」、Lynn Morrisonさんが歌い、エレ・ピやギターを導入したドラマティックな美しいバラード「Inheritance」、やはりトラッド曲を大胆にアレンジし女性ヴォーカルのハーモニーも美しい「Lowlands of Holland」、ブレトン地方のパイプ・バンドのテーマと伝承曲を結合させたパイプ・・リール曲「The Sheepwife」、 Lynn Morrisonさんがスコットランドの聖歌や賛美歌にインスパイアされて作ったという荘厳で神々しい雰囲気のある「Fragment」、Gavin Marwickさんが白鳥座が地平線から上ってくる様子を宗教的な意味も含めて表現した「Northern Cross Rising.」まで、流れるようなメロディーを紡ぎながら、その底流にはスコティッシュの伝統を強く感じさせる一枚になっています。このアルバムが出た前後からラジカル・トラッドというジャンルで多くのバンドが注目され始めたのですが、The Iron Horseの面々はそういった枠組みよりもかなりトラッド寄りではありますが、とにかく歌メロの背後で響いてくるブズーキやホイッスル、キーボードの対位するハーモニー感覚はまさにコンテンポラリーな様相を呈している、という聴いていて心が徐々に潤ってくるアルバムなのであります。

試聴音源はこちらから
http://www.mp3.com/albums/413790/summary.html

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不条理音盤委員会 541 June Tabor 「Aqaba」
- 2007/09/26(Wed) -
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秋の夜長にはぴったりという印象がある、ブリティッシュ・トラッド界ではこの人の右に出る歌姫はいないだろうと、勝手に思っているJune Taborさんの7枚目のアルバム「Aqaba」です。
そもそもこの人は図書館司書の傍らで歌い続けてきた人で、1975年のMaddy Priorとのデュオ「Siily Sisters」でデビューしたのですが、その落ち着いた沈みこむようなアルトの歌声は、研ぎ澄まされたような感性と共に深く心を揺さぶるものがあります。常にごく少数でシンプルながらも、しっかりと自己主張をしているバックと共に作品を制作しているJune Taborさんなのですが、このアルバムでも極力彼女自身の歌以外の音を削ぎ落としたかのような控えめのアンサンブルの中から響いてくる独特のイントネーションと節回しでの美しい語り口はふくらみをもった表現力とも相俟って、非常に豊穣な世界を展開させてくれています。
ピアノの伴奏のみで人生最後の一抹の寂しさをも表現した彼女のシンギングが心に響く「The Old Man's Song (Don Quixote)」、無伴奏ながらジグ風のアクセントを伴った歌い方の「Searching for Lambs」、Ric Sandersの不安を煽るようなヴァイオリンと共に浮気性の女性が殺されてしまう、いわゆる殺人バラッドの「The Banks of Red Roses」、スコットランドのグループ Silly WizardのAndy Stewart作のしみじみとしたラブ・ソング「Where are You Tonight, I Wonder?」、アラビアのロレンスを題材にした「Aqaba」、農作業のための季節労働者の間から生まれたBothy Balladの中でもっとも美しく、人気が高いと言われている曲を丁寧に歌う「Bogies Bonnie Belle」、切り裂きジャックを題材にしたバラッドを、彼女にしては珍しくトーンを上げて歌っている「The Reaper」、ジャズっぽいムードに包まれた「Verdi Cries」、中世の身分違いの悲恋を歌った「The Grazier's Daughter」、Dave Goulder作の曲をゆったりと歌い上げる「Seven Summers」、ドイツ系ユダヤ人モーリス・ローゼンフェルトの悲しい詩に人々がメロディーを付して歌い継がれてきたものをJune Taborが取り上げた「Mayn Rue Platz」、淡いシンセサイザーを背景に物語を紡いでいく「The King of Rome」まで元々一つの短編小説のような世界を持った歌詞の世界が、彼女の声で脳裏に再現されてしまうといった極めてリアルなイマジネーションを誘発してくれる一枚ではないかと思います。
カンパリ・ブラッド・オレンジを飲みながら聴くとたまりません。

試聴音源はこちらから
http://www.amazon.com/Aqaba-June-Tabor/dp/B000000E7V


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不条理音盤委員会 540 Blowzabella 「Vanilla」
- 2007/09/25(Tue) -
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ブリティッシュを筆頭にヨーロッパに限らずユーラシア大陸全般に伝承されているダンス・チューンを中心に、トラッド風のオリジナル曲も組み入れた演奏で高い評価を受けていたBlowzabellaが1990年に発表した8枚目のアルバムです。このグループは何といってもNigel Eatonのハーディー・ガーディーとPaul Jamesのバグパイプをフロントに据えているところが特徴的なのですが、その他にもメロディオンやサックス、ギターといったバラエティに富んだ楽器編成とそこから生み出される多彩なリズムを伴ったアンサンブルが絶妙のハーモニーで展開されていく様はスリリングであり、極めてハイ・テンションで高度に練り上げられた音楽性をもった彼らなのですが、一方で、特にヴォーカル・ナンバー(このアルバムではJo Freya – Ex:Old Swan Band)に顕著なようにどれだけ躍動的に振舞おうともどこか冷静というか、ヨーロッパ世界の深層を垣間見てしまったような不思議なインテリジェンスをも兼ね備えたバンドではないかと思ってしまいます。
ファンキーなギターのカッティングに煽られるようなジャジーなサックスに続き、各楽器が一体となったバルカン風の変拍子メロを展開させていく「Spaghetti Panic」、ブルゴーニュっぽい?メロと跳ねるようなリズムのアンサンブルの間にJo Freyaの静謐なヴォーカル・パートが挿入された「La Bella C'est Endormir / Famous Wolf」、ブリティッシュのスクエア・ダンスの流れをくむようなメロディーが楽しい「Jan Mijne Man / Go Mauve」、技巧的なメロディオン・ソロが聞かれる「Fulmine」、ケルトの伝統的な部分をハイブリッドに盛りつけたような感覚(後半はまるでプログレかも。。。)が妙に切なくも響く「Beanfield / Monster Café」、トラッド曲をJo Freyaが無伴奏で歌う「I wish, I wish」「A Lover's Ghost」、サスペンス・ドラマの随伴音楽のトラッド版のような曲から、“ソルベイグの歌”を挟んで、北欧風のメロにつなげていく展開が素晴らしいとしかいえない「Down Side / Solveig's Song / Doctor Feg」、ジグとリールが合体したようなリズミカルな「Horizonto」、表情豊かなメロディオンのソロに各種楽器がさらに豊かな彩りをそえていく「In Continental Mood / The Old Queen / Flatworld」、やはりトラッドの伝統を生かしながら現代風の味つけをして、各種楽器が軽快に走り回るといった感のある「The R.S.B & The Hobb」まで、重層的に組み合わされた楽器の音の一つ一つが万華鏡のように展開していく様は見事としか言いようがありません。特にハーディ・ガーディーやバグ・パイプのビリビリとした響きがもたらす空気の震えは、まさに生き続けている音楽の証~民衆の息吹のようなものを覚えます。このバンドの音はラジカル・トラッドと呼ばれているバンドよりはおとなしく聴こえるのですが、その精神性は極めて先鋭的なのではないのかとも思ったりします。

試聴音源はこちらから
http://www.amazon.com/Vanilla-Blowzabella/dp/B000005CSL


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不条理音盤委員会 537 SambaSunda 「Salsa And Salse」
- 2007/09/16(Sun) -
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たまにはインドネシア方面にも目を向けてみようかと。。。
Camel のColin BassさんといえばSabah Habas Mustaphaと名乗って、ワールド・ミュージック全盛期に3 Mustapahs 3で活躍したのはご存知かと思いますが、ユニット消滅後も彼はインドネシアのポップスに興味をもって「Denpasar Moon」「Jalan Kopo」や「So La Li」といったアルバムを発表しています。そんなSabah名義でのアルバムにセッションで参加していたのがIsmet Ruchimatが率いるSambaSundaです。1stアルバム「Berekis」ではガムラン・トゥグンを基調としたダイナミズムあふれるビート感覚とKacapi、Suling、バイオリン、ヴォーカルによるメロディの融合はトランスにも似た瞑想的で神秘的な雰囲気を醸し出していたのですが、2001年のこのアルバムでは「We live, we eat, we play with bamboos」というサブ・タイトルとおりにsaronやsuling、angklungといったガムランの伝統楽器にバイオリン、トランペット、ティンバレス、コンガ、ジャンベといった異要素の楽器編成で色鮮やかな音絵巻を展開してくれています。
サンバをベースとしたコロコロと転がるようなリズムを刻むアンクルンの上をカリブともインドネシアとも表現できない浮遊感たっぷりのスリンやバイオリンのメロがかぶっていく「TeamRisk」、レゲエ風のゆったりとしたリズムを借用しながらジェゴグ、ヴァイオリン、スリンがムーディーでトロピカルな歌メロを奏でていく「BentolSoca」、ついつい踊りだしたくなるようなパーカッションの応酬に突如として、ジャイポンガンぽいセッションが切り込んでくる「Jaleuleu」、Sabahのアルバムにも収録されていた曲を伝統色豊かに再アレンジした「Solali」、ポップ・スンダの雰囲気そのままに、竹の響きを生かしたファンキーなナンバー「Tarabalaka」、インドネシア版チャランガ~チャ・チャ・チャといった渋いムードをもった「Kool'nTrunk」、サルサ+カリプソというよりもほとんどズークに近いリズムをジェコグが叩き出し、沖縄っぽいペロッグ音階のメロが爽快な気分を演出してくれる「Sisidueun」、3曲目の別ヴァージョンで正統的なスンダ風に演奏したような「Jaleuleu (minusone)」まで、明るく真っ青な南国の青空を連想させてくれるようなめちゃ楽しいアルバムなのですが、その基盤となっているインドネシア的な部分の湿気の帯び方具合もまた最高な一枚なのです。


公式HPから彼らの音が視聴できます(iTunesではこのアルバムがDL可能です)
http://ccgi.kapaprod.plus.com/main.php?qnav=3&qmnu=1&qpath=artists/artist1/&qpg=arsub4&qsb=4
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不条理音盤委員会 533 The Deighton Family 「Mama Was Right」
- 2007/09/11(Tue) -
「South Yorkshire Indonesian Dutch Cajun Folk Pop」というキャッチ・フレーズを打ち出したこのThe Deighton Familyは英国人であるDaveとインドネシアとオランダのハーフであるJosieというDeighton夫妻と彼らの5人の子供たちによるヨークシャー在住の文字通りのファミリー・バンドで1990年発表のこのアルバムが2枚目になるようです。エレクトリック・ギター以外はアコースティック楽器でのアンサンブルなのですが、カントリー系のストリング・バンドにフルートを加えたような、なんとも形容しがたいゆったりとした演奏が多く、また奥さんのJosieさんの出自に由来すると思われるハワイアンやクロンチョン風のエッセンスが、トラッド/カントリーをメインとした演奏に微妙な色合いを施していて、Daveさんの朴訥なかすれ声のヴォーカルと共にちょっとトロピカルながらも涼しげなイメージをもたらしてくれます。

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E..Claptonの曲をトラッド+レゲエ風にアレンジした「Wonderful Tonight」、疾走感満点のリール「Soldiers Joy」「Cotton Eyed Joe/Mag Pie」、ほのぼのとしたカントリー・タッチの「Mama Was Right」、ジャズ・スタンダードの名曲をクロンチョン的なアレンジで処理した絶妙な味わいのある「When You’re Smilin」、ブルース風の「In My Time Of Dyin’」、マンドリンのフレーズがやはりトラッドではなく、ほのかに東南アジアっぽいような「Farther Along」、リズムのはね方も楽しいジグ・ナンバー「Castle Kelly」、テックス・メックス風にも聴こえる「Bonaparte’s Retreat」、スライドさせたギターの音がやはりクロンチョンを連想させるような「Many Good Man」、ブルー・グラス風の軽快な演奏も快い「The Miser/Taxman」「Cotton Patch Rag」、何ともいえないハイブリッド感覚に絶句してしまう「Salvation Railroad」、美しいティン・ホイッスルの音色が印象的な「Slow Air(The Little Field Of Barley)」、ブルース・タッチながらトラッドの要素をたくみに織り込んだ「Freight Train Blues」まで、歌も演奏もあまり上手とは言えないのですが、響いてくる欧米的な音の中にアジア的なものを発見する楽しみというものもある不思議な一枚ではないかと思うのです。

試聴音源はこちらから(Nap Starでもこのアルバムを聴くことができます)。
http://www.amazon.com/Mama-Was-Right-Deighton-Family/dp/B0000003T0/ref=pd_bxgy_m_text_b/104-4161275-8491161

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不条理音盤委員会 521 Fra Ola Narr 「Vy」
- 2007/07/19(Thu) -
オフィス近くの食堂で「冷やし中華」の幟が立てられたので、早速美由紀ちゃんと食べに行った片桐と言います。最近流行の「サラダ冷やし」ではない、ハム、チャーシュー、錦糸卵、胡瓜の細切り+トマトのザク切りといった伝統系のもので、いかにも夏らしく爽やかな酢醤油仕立ての逸品でございました。

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というわけで、ノルウェーのエスノ・フォーク・ユニットFra Ola Narrが1990年?に発表した2ndアルバム「Vy」です。現在もTVや映画音楽に於いてミュージシャン兼作曲家として活動しているSvein Hansenと、大学で民族音楽関連の教鞭をとっているJan Sverre Knudsenの2人をコア・メンバーにしたこのユニットはノルウェーの伝統的な音楽に世界の民俗音楽のエッセンスをまぶした非常に楽しい音楽を展開していて、同時期にワールド・ミュージックの分野で注目された3Mustaphas3の北欧版ともいえるような清涼感と透明感いっぱいのカラフルなトラディショナル・ミュージックを奏でています。お祭りのパレードを思わせる短い「Marsj Fra Ola Narr」から始まり、遊園地のBGMのような「Zoppo」、流れるようなヴァイオリンとフルート、そして女性コーラスが印象的なボサ・ノヴァ・タッチの「Hallingen Åt Nystu`N」、ヴァイヴとチェロが静かなメロディーを奏でる「Smygaren」、ヴォーカルの女性が途中で笑い出したのをそのまま録音してしまった「Marekatta」、憂いを含んだメロディーが心に沁みる伝統的な舞曲「Skrullingen」「Elfi」、タイトル通りインド風の「Raga」、東南アジアを思わせるゴングと琴(カンテレ?)を使った女性ヴォーカル曲「Snu」、オルタナ・ロック風の「Den Svrunke」、トラッドのエッセンスを最大限に活用した「Solbønn」、カリブ海音楽にインスパイアされた「Ti Bwa」、チャチャチャ~ルンバ風の「Birdveigs Dansesko」、やはり東南アジア的なアレンジが楽しい「Karavane」「Veiv」、厳かな雰囲気の「Koral」、ジャズ・ワルツ風の「Krusning」、フルートのソロによるトラディショナルなジグ「Langfløyteleik」、鳥の鳴き声を模したような笛の音が印象的な小品「Spor 19」までとにかく遊び心いっぱいといった印象で、使われている楽器の音の可愛らしさも含めて聴いているうちにワクワクしてくるような陶酔感に溺れること必至の一枚です。


試聴音源はこちらから
http://www.musicfromnorway.com/default.aspx?norwegian=artist&music=20138



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不条理音盤委員会 429 Iona 「The Book Of Keels」
- 2006/10/12(Thu) -
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西スコットランド沖に浮かぶIona島から名前を借用したコンテンポラリー・トラッド・グループのIonaはJoanne Hoggの清冽な歌声とDave Bainbridgeによるケルト音楽を基盤とした多彩な方面の音楽の展開を核に雄大さと繊細さを兼ね備えた独特のアンビエントな音楽を奏でていて日本でも人気が高いようですね。元Kaja googooのNick Beggsがベースを弾いていたり、Robert Frippがゲスト参加していたりという話題にも事欠かしませんでしたが、、この1992年の2ndアルバム「The Book Of Keels」でもケルト民族に伝わる書物(ケルト風デザインの源流となっているらしい宗教的な書のようです)をテーマに、そこに記されている物語や絵にインスパイアされて創作された壮大な響きを伴ったシンフォニックなコンセプト作品に仕上がっています。。無限の空間の拡がりを感じさせるような音とJoanne Hoggが朗々と歌い上げる「Kells Opening Theme」から始まり、美しいメロディーがゆっくりと上昇していくような高揚感あふれるアンサンブル(サックスの音がちょっと違和感ありますが。。。)の「Revelations」、ケルト風のトラッド的なモチーフを様々に展開させたシンフォニック・プログレ的なインスト曲「Matthew - The Man」、後半にはサックスが煽るような響きを聴かせるアメリカナイズされたフォーク・ロック風の「Chi Rho」、ジグを翻訳したようなサウンドにのせてテンション高いエレキのソロが聴かれる「Mark - The Lion」、All About Eveのような「The River Flows」、ゆったりとした印象のアンビエントな小品「Luke - The Calf」、ケルティック・ハープとロウ・ホイッスル?による「Virgin And Child」、荘厳なシンセの合間にエスニックなパーカッションが打ち鳴らされる「Temptation」、サックスがメインのソロをフューチャーしたドラマティックな展開を聴かせる「TheArrest Gathsemane」、ヒーリング・ミュージックにも近い印象のあるシンセとムーディーなサックスが交錯する「Trinity - The Godhead」、やはり哀愁漂うサックスと零れ落ちるようなピアノの音が印象的な「John - The Eagle」、ケルトの大地を思わせるようなリズムをバックにJoanneが地下r多強く歌い、バックもハードに盛り上げていく「Kells」、ケルトのみならずユーラシア大陸全体を見渡したようなエスニック感覚あふれるシンフォニックな「Eternity - No Begining, No End」」まで幽玄な音色と大らかさが入り混じったような世界が次々と展開されていきます。個人的にはちょっと安易なアンビエント志向とAOR的なサックスの多様といった部分が気になりますが、これ以降の作品ではケルトのもつ精神性の深化とその現代的な展開をみせていることから方向の模索あるいは習作といった見方も可能なのかもしれません。ただ、そういったある意味中途半端なところはトラッド好きな人よりもプログレ方面に通じるものがあるような気がします。

試聴音源はこちらから
http://www.cduniverse.com/search/xx/music/pid/6395178/a/Book+Of+Kells.htm

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不条理音盤委員会 407 Mark Saul 「Mixolydian」
- 2006/08/07(Mon) -
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相変わらずのアホBlogなのですが、goglemanさんのところで突っ込んだバグパイプものです。
世間では夏祭りとそれに伴う花火大会で、どこもかしこも人出でにぎわっているわけなのですが、そのとばっちりで馴染みのカレー屋に長蛇の列が出来ていて、たまたま道路に水を撒いていたこれまた顔なじみの泉ピン子似の女性マスターに「片桐さん、満員ですみません」と言われた日には、まるでこっちが悪いことでもしたかのような後ろめたさを感じてしまうのでありました。というわけでオーストラリア出身のパイパーMark Saul氏のアルバム「Mixolydian」なのですが、これがまたイケテいるというか、なんともジャンル分けが不可能な作品に仕上がっているというべきか、トラッドをベースにした耳に新鮮なミクスチュアー的な作品というか、浮遊感とアンビエント感覚にあふれたトランシーな一枚になっているのですから、こういった音楽は昼間の喧騒を忘れたいと思いながらも、熱帯夜のためにどうしても心が落ち着かない時に無添加のトマト・ジュース片手に聴いていると結構安らぐ部分があるのです。全編オリジナルながらスコティッシュ風の曲とクラブ・ビートを融合させる試みは、幾多もありましたがMark Saul氏はどこか自然体のような飄々とした雰囲気で演奏をしているようにも思えるのですが、まるでネオアコ・バンドのようなギター・カッティングに導かれて優雅なメロディーが奏でられる「Prelude & Theme in E Minor」から始まって、サイケデリック・トランス風のリズムにのってWhistleとBagpipeが宙を舞う「The Gateless Gate」、ハウス風のループするビートにBagpipeが暴れる「Forget The Golden Rules」、正統的なケルト・ミュージックと打ち込みドラムが対照的な「Journey To The Centre of The Celts」、ヒーリング・ミュージックのような静かな装いの「Beyond」、チープなドラムン・ベース風の「A Dimension」、カントリー風のイントロから、これまたドラムン・ベース風のリズムが活躍する「Digital Breakdown」、チュルクの軍楽隊のような脅迫的なビートとスペイシーなシンセ音が交錯する「It’s An Instrument」、サイケデリックな感じのリズム・トラックの上をBagpipeが縦横無尽に飛び交う「Wicked Train of Thought」、オーケストラルでクラシカルな感じで最後を締めくくる「E Minor End Theme」まで、ジャストなリズムと呼応する如き1/fの微妙な揺らぎのアコースティックな楽器との対比がまた心地よいのでありました。

試聴音源はこちらから
http://www.tradtunes.com/album_details.php?album_id=2945
http://www.myspace.com/marksaul

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不条理音盤委員会 377 Grada 「The Landing Step」
- 2006/07/05(Wed) -
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ちょっと枠組みから外れた音を出すグループを世間ではラジカル・トラッドと称しているようですが、別にアイリッシュ/スコティッシュや地域を問わずとも、伝統的な音楽を伝統的に解釈するグループもあれば、トラッド以外の要素を積極的に導入した異種混合的なグループが並存しても不思議でもなんでもないわけで、それは単なる視点の差異であって優劣などつく筈もないのであります。アイルランドのダブリンやゴールウェイを拠点にしているAndrew Laking (Ac-b) , Brendan O'Sullivan (Vn) , Anne Marie O'Malley (Vo) , Allan Doherty (Fl,Whistle,Vo) , Gery Paul (G,Vo)の5人組のこのGradaもコンテンポラリーなサウンドをベースとしたトラッド的世界を展開しているわけですが、これまた単にラジカルな解釈というよりは伝統の新解釈というべきものではないかと思います。オスカー・ワイルドの「死者のための祈り」にフォーク・ロック風の曲をつけた「Tread softly」、疾走感あふれるフルートとフィドルの絡みがスリリングなオリジナルのリール・ナンバー「Go Neiri an Bothar Leat」、Anne Marrieが憂いに満ちた声でクロアチア移民の女性のことを歌った「Isabelle」、ギターとピアノが都会的な情景を演出する中で、社会の矛盾のようなものをクローズアップさせながらも淡々としたプロテスト・ソング風に仕立て上げた「Weight of the World」、フルートの澄んだ音色が耳に残るダンス曲「Seven of Eight」、ホィッスルのくすんだ響きと弾むようなメロディーのためか、一瞬アンデス地方の音楽かとも思ってしまう「All in One Day」、アップ・テンポのコンテンポラリー風の「The Back of Beyond」、ゲストのEamonn De Barraのピアノも加わったリリカルでスイートなワルツが心地よい「Manuka Swing」、 軽やかなアンサンブルにBill Blackmoreのトランペットが挿入されても何の違和感も感じさせない卓抜とした演奏力と構成力を誇る「Shock On」、Linda Thompsonの名曲をちょっとラジカルなアレンジでカバーするアンサンブルを背後に、Anne Marieがしっとりと歌う「Dear Mary」、各楽器が奏でるメロディーがエレガントにリフレインされながら、自由に舞う「A Lenvers」までトラッドとの程よい距離感と柔軟性を基盤にしながら然るべき奥行きと彩りを存分に感じさせる音作りになっています。個人的にはドラムやピアノ、トランペットといった非トラッド系の楽器が実は「歌=メロディー」を効果的に聞かせるために敢えて導入しているのではないかとさえ思えてきます。異なるものを装うことで逆に表現しようとしているトラディショナルな部分との差異を明確にして、トラッドとコンテンポラリーとを鮮やかに対比させる。。。そういった意味に於いてはこのGrandeというグループはラジカルであると言えると思います。

試聴音源はこちらから
http://www.mp3.com/albums/631595/summary.html

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不条理音盤委員会 369 Pirpauke 「Ikiliikkuja」
- 2006/05/28(Sun) -
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某所で試聴して思わず買ってしまったフィンランド出身のエスノ・ユニットPipaukeの2005年に発表したベスト盤「Ikiliikkuja - Perpetuum Mobile」です。アジア~東欧~スカンジナビアの伝承曲やオリジナル曲をエスニックな音使いによるジャズ風味も取り入れて演奏しているので一時期かなりのヘヴィー・ローテションになっていました。これ以前に数枚のアルバムを発表しているようですが、詳細な情報は不明です(というかライナー・ノーツがドイツ語なので読めない・・・涙)。インナー・スリーブにアフリカ系らしき人が写っているせいもあって、意識的にアフリカっぽいエッセンスをも加味しているのですが、どことなく粘着力を覚える土臭い演奏はハンガリーのKolindaに共通するような気がします。フィンランドの伝統楽器カンテレを模したピアノに不気味なベースが絡んでいく「Konevitsan Kirkonkellot」、アンデス地方のフォールクローレのようなメロをリコーダーが奏でる「Imala Maika 」、ギターが思い切り泣きのメロを弾く「Soi Vienosti Murheeni Soitto」、脱力感満点のトラッド曲をレゲエ処理した「Swedish Reggae」、ほのぼのとした美しい女性コーラスが聴ける「Kylätiellä (Village Lane)」、中近東の雰囲気が漂う「Vastaa, Ystävä (Answer, Friend)」、バルカン音楽とサンバが合体した「Joropo Lianero (The Dance Of Lianos)」、ムーディーなサックスが印象的なジャズ・エスニック・ワルツの「Berceuce」、これまたサックスが主導権を握りながらも、各種楽器が交錯するエスノ・アンビエント風の「Muheva Muuttuja (Rites Of Passage)」、モーツァルトのトルコ行進曲をチュルク風に解釈した「Rondo à La Turca」、ギクシャクとしたレゲエのリズムの「Hullu Sakari (Crazy Sakari)」、アラビック・レゲエで月を讃える「La Luna」、アフリカ風のサウンドと言葉遊びっぽい歌詞がユーモラスな「Tuku Tuku」、男女掛け合いのヴォーカルとゲルマン特有のメロをこれまたレゲエで表現した「Anillo / Tuohinen Sormus (Birch Bark Ring)」、フラメンコもどきの「Niin Minä Neitonen」、これまたカリプソ初期にも通じるかなりアフリカ色の濃い「Suurtarin Emännän Kehtolaulu」、フィンランドのダンス曲をジャズ・ロック風に演じた「La Fuente」、タイトル通りのロマンティックな「Serenadi (Ständchen)」まで、多彩でスリリングな演奏が楽しめると同時に、どこか脱力感すら感じさせるようなしなやかさが味わえる一枚だと思います。

試聴音源はこちらから
http://www.aum.at/artikel.php?WEA=6882095&artikelnummer=10318296&mode=art&PUBLICAID=b13a45ac692b5cbc3306f1d99ff6d0f4

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不条理音盤委員会 349 DEN 「Just Around The Window」
- 2006/04/19(Wed) -
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フランス・ブルターニュ地方のトラッドを演奏するKornogのメンバーでもあるJean-Michel VeillonがJackyとPatrickのMolard兄弟らと結成したユニットがDENです。このアルバムは某専門店の情報誌の推薦盤として挙げられていたのですが、どうもこのアルバム一枚限りの単発的なユニットだったようでその後は各々独自に活動しているようです。KornogがJamie McMenemieがスコットランド出身ということもあって、ブレトン的な要素よりもスコティッシュ的な色彩を強調したフォーク・ロック風の音楽だったのに対して、このDENからは意識的なのか東欧風のエッセンスとよりロックに近いサウンドを導入しているといった面で新鮮さを感じます。この点に関しては以前ClannadのMaire BrennanやハンガリーのMarta Sebestyenがケルトと東欧の音楽には相通じるものがあるといったことを語っていましたが、DENのメンバーはヴァイオリン類や笛類の響かせ方やアレンジメントに関してあえてそういった要素を際立たせたのではないかという推測すら覚えます。まさにフィドルとフルートが東欧風に展開する中で、ドラムが力強いビートを刻む「Just around the window」、マジャールのトラッド曲をケルト風の音で処理した「L'Oriente est grand」、エレガントなメロディーのパイプ・ナンバー(ベース・ラインはかなりファンキーですが・・・)の「Madame Lulu」、幽玄な雰囲気をもった「Five sounds」、ジャズ・フュージョン・タッチの音処理が刺激的な「Le rayon vert」、フィドルの朴訥な響きが伝統と現代を結びつけるようなイメージを喚起させる「The last chance」、クラシカルな色彩でトラッド曲をアレンジした「Javah」、広大な大地を連想させるパイプの響きが印象的な「Lights out」、舞うようなあるいは転がるような変幻自在のメロディーをパイプとフィドルを中心としたアンサンブルで聴かせる「Aube mauve」、アンビエントなイントロから一転して陽気なジグに移行する「Sweet rain / Plevin jig」まで、自分たちが生きてきた土地への愛着と尊重を大切にしながらも、それだけに固執せずに巨視的な視点で音楽を表現したという感があるエキサイティングも兼ね備えたアルバムだといった印象があります。

試聴音源はこちらから
http://www.amazon.fr/exec/obidos/ASIN/B00005QDD6/qid=1146534931/sr=1-2/ref=sr_1_10_2/171-6561840-7585842

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不条理音盤委員会 331 Capercaillie 「Crosswind」
- 2006/03/24(Fri) -
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鋭い批評精神の持ち主のオラシオさんの「オラシオ主催万国音楽博覧会」でこのスコティッシュ・トラッド・グループCapercallieの「Sidewalk」が紹介されていましたので、ここではその前の1986年発表の2ndアルバム「Crosswinds」を取り上げます。84年に「Cascade」で世に出た彼らなのですが、このアルバムでは紅一点のKaren Mathesonの天使の歌声とも呼べるような透き通った声を前面に打ち出し、それをCharlie McKerron (Fiddle), Marc Duff (Recorder, Whistles, Bouzouki), Donald Shaw (Accordion, Keyboards), Martin MacLeod (Bass, Fiddle)、Shaun Craig (Guitar, Bouzouki, Percussion)といった5人の男性陣が堅実なプレイで彼女を支えているといった様相を呈しています。無論ヴォーカル・ナンバーと交互に配されたインスト曲で聴かれるバンドのテクニックは水際立って素晴らしく、巧みなアレンジメントも相俟って聴く者の琴線を刺激して止みません。Karenの伸びやかな声で歌われるマウス・ミュージックから、そのまま躍動感を継承した陽気なジグ・ナンバーがメドレー形式で続く「Puirt A Beul / Snug In A Blanket」、Karenがヘブリディーズ諸島バラ島出身の母親から習ったというバラッドで、オーストラリアに移住したバラ島出身の人が故郷を懐かしむという歌詞がピアノとシンセのみで切なく歌われる「Soraidh Bhuam Gu Barraidh」、アコーディオン、フィドル、リコーダーの3者が交錯しながら楽しいメロを奏でていくジグのメドレー「Glen Orchy / Rory MacLeod」、アイリッシュ起源と言われるラブソングを軽やかに歌い、そのヴォーカルに寄り添うホイッスルやフィドルのアレンジが絶妙な「Am Buachaille Ban」、スコティッシュ・リールのメドレーで、自由自在に舞うフィドルのテクニックに思わず舌を巻いてしまう「The Haggis」、リズム・アレンジの少々冒険を施しながらも、今度はアコーディオンが主導権を握ったリールのメドレー「Brenda Stubbert's Set」、もう何も言うこともない美しいヴォーカル・ナンバーの「Ma Theid Mise Tuilleagh」、2本のフィドルの絡みがスリリングなリールが一転してゆったりとしたジグになり、再度アコがメインの加速度を増したリールへと移る珠玉のメドレー「David Glen's」、神への祈りを続ける女性の姿をKarenの清楚な歌声で表現される「Urnaigh A 'Bhan-Thigreach」、ホィッスルのソロが幽玄な表情を見せる前半部から、ファンキーなギターとベースを従えたリールへと移行する「My Laggan Love / Fox On The Town」、 スローなシンギングが心を打つ「An Ribhinn Don」まで、スコットランドの清冽な空気を連想させるような清々しさを存分に味わえる作品になっています。その一種ミステリアスな幽玄さを帯びた音が心を浄化させてくれるのではないかとすら思うのです。次作の「Sidewalk」ではメンバーにManus Lunny、プロデューサーにDonal Lunnyという兄弟を迎え、スコティッシュにとどまらない汎ケルティックな視線での作品になっています。

試聴音源はこちらから
http://www.mp3.com/albums/80042/summary.html?q=crosswinds
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不条理音盤委員会 328 Kathryn Tickell 「Debateable Lands 」
- 2006/03/21(Tue) -
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めちゃ美人のNorthumbrian small pipes奏者Katheryn Tickellの2000年に発表した5枚目?のアルバムです。個人的にはThe Chieftainsのクリスマス・アルバムのLDで初めて彼女を知ったのですが、一般的にはStingの「Soul Cage」の冒頭の曲「Island Of Souls」での不思議な音を出している人といった方が早いのかもしれません。彼女の出身地はNorthumberlandなのですが、行政的にはイングランドの最北端に位置することもあって、文化的にはスコットランド的な色彩が強い地域のようです。この地域の代表的な楽器であるNorthumbrian small pipesは構造的にはUilleann pipesやBagpipesと一緒なのですが、微妙に哀愁を感じさせるようなくすんだ音色を響かせるのが特徴のようです。このアルバムでKathrynのパイプとフィドルの他に、ギター、メロディオン、ベース&フィドルを担当する3人の男性とのバンド編成で、各地のトラディショナルな曲に彼女のオリジナル曲を交えてリズミカルで軽やかな演奏を繰り広げています。陽気なメロディーのリールのメドレーの「The Wedding/Because He Was」、湿気を帯びたような切ないメロとギターの絡みが美しい「Our Kate/The Welcome Home」、Katherynの弾くフィドル曲から跳ねるようなジグに移行する「In Dispraise of Whisky/Swig Jig」、クラシカルな雰囲気すら漂わせる2本のフィドルの絡みがスリリングな「Road to the North/Hanging Bridge/All at Sea」、チェロを従えて憂いを込めたメロディーを奏でる「The Return」、イングランド風味のメロディオンが活躍する「Kilfenora/My Laddie Sits Ower Late Up」、重々しく荘厳な「Dunstanburgh/Kathryn's Favorite」、スロー・エアー風の反復を繰り返すメロディが心地よい「The Magpie/Rothbury Road/Cold Shoulder」、軽快なメロディを持つ「Hut on Staffen Island/Random」、ミニマル構造を持ったフレーズが小刻みに姿をかえていく、ちょっと実験的とも思われる「Stories from the Debacteable Lands」、2曲目の別バージョンでIonaのTroy Donockleyをゲストに迎えてイングランド~スコティッシュとアイリッシュの2本のパイプが交錯する摩訶不思議な世界を生み出している「Our Kate」まで、伝統的な姿勢を守りながらもそこに固執することなく自由に表現を試みようとする姿勢がうかがわれるアルバムだと思います。

公式HPはこちらから
http://www.kathryntickell.com/
試聴音源はこちらから
http://www.mp3.com/albums/421168/summary.html

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不条理音盤委員会 325 Makam 「Anzix」
- 2006/03/18(Sat) -
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ハンガリーを代表するラジカル・トラッド・バンドMakamが2003年に発表した8枚目?のアルバムです。一時期やはり同国のトラッド系バンドKolindaと合体していた頃もありましたが、音楽性の相違もあって再び両者は単体として活動することになりました。どちらかといえばMakamの方がエスノ・ジャズ的な色彩が強いという印象がありますが、一聴すればわかるようにマジャール民族特有の土着的な要素を基盤として、民族楽器やサックス、ヴァイオリンをフューチャーしたハイセンスなアレンジメントは聴くものに斬新な衝撃を与えてくれますし、フロントの女性陣のヴォーカルには同じアジア系民族ということもあって、どこか懐かしい響きあるいは郷愁のようなものさえ感じます。冒頭のFululyaに導かれて掠れた女性ヴォーカルが歌う「Van-e teneked...?」で既にKOされてしまった片桐なのですが、続く優しいアコ・ギの響きも美しい「Jaj, sotetben」、流れるようなベース・ラインの上を舞うように軽やかに歌う「Kesely?」、ギリシャ風の雰囲気も漂う明るい感じの「 Ilju」、3人の女性コーラスと変拍子を交えたインスト・パートがマジャールの土臭さを表現した「Fudogal」、途中でサックスがジャズ寄りに走る「Kilences」、Marta Sebestyenを思わせる独特の地声スタイルのヴォーカルが心を打つ「Katona sirato」、管楽器をフロントに打ち出したスリリングなアンサンブルの「Ebredj fel」、Bouzukiをフューチャーした中近東色が濃い曲を呟くように歌う「Edesanya, kedvesem」、バルカン特有のフレーズを楽しげに奏でていく「Eleven」、ボトムの効いたロックぽいベースラインが不思議とエスノ・サウンドとヴォーカルを引き立てる「Gyere velem」、男性ヴォーカルによるシャンソンにも通じる小粋な「A Don-kanyar felol」まで、自分たちのルーツを相対化しながらも極端な形で提示するというわけでもなく、淡い色彩を伴ったような最小限の音でそういった信念を表現するといった方法論で作られた本当に癒されるような曲が続きます。ある意味でさりげなさの極致とも言うべきアルバムではないかという印象を覚えます。

試聴音源はこちらから
http://www.mp3.com/albums/20073832/summary.html
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不条理音盤委員会 309 Warsaw Village Band 「Uprooting」
- 2006/02/24(Fri) -
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最近何かと世間の評判も高い1997年にポーランドにて結成された男女混合6人のトラディショナル・ミュージック・バンドの最新アルバムです。1997年に結成されたこのWarsaw Village Bandは伝統的な楽器を使用しながらスラブ系民族の音楽を色彩豊かに演奏しているのですが、英国プレスでは「ポーランドのThe Pogues」と評したようにレゲエ、ダブやジャズの要素がブレンドされた「ハード・コア・フォーク」「バイオ・テクノ」と称される独特のスタイルは時代を超越したようなディープで味わい深いサウンド世界を展開しています。素朴な太鼓と男性の歌の「Roots: Jozef Lipinskiに続いて、スクラッチを含むダブ的な音処理とパンク風のヴォーカルが組み合わされた「In The Forest」、レゲエ風のリズムに女性ヴォーカルが伸びやかな声で歌う「Woman In Hell」、マジャール~ブルガリア方面のアジア的な雰囲気も漂うスローな3拍子の「At The Front Of The Gates」、フィドルを前面に打ち出したギリシア的な感覚も感じられる「Polka From Sieradz Region」、ヴァイオリンがレゲエ風の跳ねるようなリズムを刻む中を、ユーモラスな掛け合い風の女性ヴォーカルが楽しい「Matthew」、現地録音?による短いトラッド曲をはさんで、幽玄な女性ヴォーカル・ナンバーの「Let's Play, Musicians!」、鳴り物も賑やかに疾走するバルカン風の「he Owl」、チェロをフューチャーした「」Grey Horse (intro: Kazimierz Zdzralik)」、アコと歌による伝承曲の「Roots: Kapela Mariana Palki」に続いてジャズとキャバレー・ソングが合体したような風変わりな曲にスクラッチが絡む「When Johnny Went To Fight In The War」、無伴奏トラッド曲?の「Lament」、クラシカル~プログレ的な弦楽合奏がスリリングな「I Slayed The Rye」、ギコギコというフィドルの音が微笑ましい「Roots: Kazimierz Zdzralik」から、ピチカートに導かれてポップなメロディーが歌われる「Fishie」まで凛とした響きが楽しめるアルバムになっているような気がします。個人的にはアコーディオンやクラリネット系のリード楽器が入ればもっと盛り上がるのではないかとも思ったのですが、何はともあれ今後に活動に大いに期待したいバンドの一つではあります。

試聴音源はこちらから
http://www.sternsmusic.com/disk_info/468036

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不条理音盤委員会 276 SYNTHESIS 「Let God Smite Him」
- 2006/01/21(Sat) -
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DD Synthesisとも名乗っているマケドニアの7人組のトラッド系バンドの2枚目?のアルバムです。カヴァルやガイダ、タンブーラといった民俗楽器をフューチャーしながらAneta、Biliana、Mirianaという3人の美人・美声ヴォーカルをフロントに据えたドラマティックでかつプログレッシヴな演奏を聞かせてくれるこのユニットは、伝統楽器のアンサンブルと同時にピアノやシンセ、ギターも組み合わせた緻密なアレンジを主体とし、バルカンの過去と現在をつなぎ合わせるような、説得力あふれる音作りをしています。ブルガリアン・コーラスのような地声主体のコーラスとピアノ・ストリングをたくみに配した「Pomolila boga maca」は一瞬沖縄のネーネーズを思わせるような明るい曲ですが、続く「9-ka」では伝統的な舞曲のスタイル、ガイダをフロントに打ち出し、荒野を思わせる雄大な展開の「De bog da bie」、カヴァルの美しいメロディーがピアノ、ダルブッカと交錯する「Star bel dedo」、バルカン特有の変拍子を多用した楽しい舞曲風の「Ori Ande」、中近東色濃い音に女性3人のコーラスが絡む「Kaljo」、タパンが打ち鳴らされ、ズルナが吹き鳴らされるアグレッシヴな「Gooeva 2」、再びカヴァルをフューチャーしたドラマティックな「Oj Devojche」までかなり強烈な個性を感じさせる音が飛び出てくる作品になっています。また音響処理の関係もあって、映像が脳裏に浮かぶ如き非常にイマジネーションに富むという印象があります。

公式HPはこちらから(試聴もできます)
http://www.synthesis.com.mk/eng/index.asp

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不条理音盤委員会 275 Topolovo Folk Band 「BELINTASH」
- 2006/01/20(Fri) -
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Jacky MOLARD (violin、viola、guitar)、Emmanuel FRIN(clarinet、gaida、saxophone)、Wenceslas HERVIEUX(accordion)、Jean-Francois ROGER(drums, percussions)、Etienne CALLAC(bass guitar)というフランス人5人にブルガリア系のKalinka VULCHEVA(vocal)をゲストに迎えてブルガリアの伝承曲を演奏するために結成したのが、このTopolovo Folk Bandです。ライナー・ノートやWebサイトの記事によればブルガリアの結婚式でブラス・バンドによってよく演奏される有名な曲ばかりを選んで録音したようですが、オリジナルをあくまでも尊重しながら、自分たちの味つけを施したという点が評価されているようです。ブルガリア特有の変則拍子の「Ludanica」から始まり、流れるようなメロディーの「Na sàbor」、妙に気だるいような演奏にKalinkaのブルガリアン・ヴォイスがかぶる「Mari Mariiko」、中近東系ジャズといったサックスのフレーズが心地よい「Sabazii」、メロディーの主導権を握る各楽器のユニゾンがピタリと調和した心躍るホロ・ナンバーの「Dajchovo horo」、再びKalinkaをフューチャーしたアラブ色の濃いヴォーカル・ナンバーの「Laleto」、ガイダとヴァオリンを全面に打ち出した「Trite pati」、軽快ながらもリズムが始終クロスする「Strandzhanska rashenitsa」、クラリネットが主導権を握る(本来であればカヴァルなのでしょうが。。。)「Belintash」まで、手堅い演奏を繰り広げています。一部リズムがぎこちない点や楽器の音色の処理がフランス風になってしまっているという欠点(特にアコに象徴されますが)も指摘できますが、そういった部分を大目に見て許せるほど楽しい作品に仕上がってるという印象があります。

公式HPはこちらから
http://www.topolovo.com/
試聴音源はこちらから
http://www.bulgarian-music.com/cd-752-Topolovo+Folk+Band+-+BELINTASH+-+Bulgarian+Horo

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不条理音盤委員会 271 EASTERN WINDS 「Eastern Winds」
- 2006/01/16(Mon) -
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アルメニア系アメリカ人のKanun奏者として日本でも名前が知られているAra Topouzianが2004年にEatern Winds名義で発表したアルバムです。Ben Temkow (violin)、 Mark Sawasky (percussion)、 Doug Shimmin (guitar, bass, bouzouki)の4人で繰り広げられるその音世界はAra Topouzianの出自の由来ともなっているアルメニアやギリシア、マケドニアやアラブといった周辺諸国の伝承曲を自由な発想と独自の解釈で色彩豊かに表現しているような気がします。彼の演奏するKanunはアラブの伝統的な撥弦楽器で、3本1組となった弦が台形の箱に17~25列張られています。独特な金属的な響きの元となっている微分音の配列が容易なように糸巻きの近くに金属製のブリッジが2~10個ほどあり、それを倒したり立てたりすることによって、微分音を調節できる仕組みになっています。アラブ的な色彩が強いながらも、所々に聴かれるフレーズにはギリシア的な雰囲気も感じられる「Realties」、反復されるヴァイオリンの哀愁漂うメロディーが印象的な「Flower Song」、ギリシアの大衆歌謡レベーティカっぽいヴォーカルの「Erinanki」「Hey Balla!」、Ara Topouzianのクラリネットが重々しく荘厳なメロディーを奏でる「Two Strings」、スラブ的な感覚もある華麗なマケドニアの舞曲の「A Grand Mansion」、Doug Shimminのブズーキとアコ・ギが主導権を握る優雅な「Graceful」、跳ねるようなリズムが特徴の明るいギリシア~地中海風のナンバーの「The Gardener」、アルメニア風のフレーズを各種楽器がユニゾンで疾走する「Perfect Love」、軽快なメロディーが次々と飛び出すギリシア~マケドニアの伝承曲のメドレーの「Elena’s Medley」まで、ちょっとリズムの絡ませ方やアンサンブルにぎごちなさを感じないわけでもないのですが、乾いたようなKanunの響きを十分味わえるアルバムだと思います。

Ara Topouzianの公式HPはこちらから
http://www.easternwindsmusic.com/
試聴音源はこちらから
http://cdbaby.com/cd/easternwinds


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不条理音盤委員会 270 Kardes Turkuler 「Bahar」
- 2006/01/15(Sun) -
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トルコ国内に住む様々な民族の民俗音楽を演奏するKardes Turkulerの最新作「Bahar」が国内でも発売されるようになったので早速入手しました。このバンドはイスタンブールにある 国立ボアジチ (Bogazici) 大学のサークル・バンドから発生し、現在ではBogazici Gosteri Sanatlan Toplulugu (BGST; Bogazici Performing Arts Ensemble)というダンス部門や演劇部門も含めた一つの民族的な芸術集団として活動しているようで、Kardes Turkulerはその音楽部門に相当するようです。トルコ語で「友愛の歌」を意味するバンド名は、当然の如くトルコ国内の各民族の友愛と共存を意識しているのであり、このバンドが取り上げている曲もチュルク、クルド、アルメニア、ロマ、ギリシア、グルジアとさながらトルコ周縁音楽の万華鏡ともいえる一大音楽絵巻を展開しています。アクの強い女性ヴォーカル、ユニゾンのコーラス、吟遊詩人を思わせるような渋いヴォーカル、そして様々な民俗楽器を自由自在に使いこなしながら、その合間にアコーディオン、ギターやキーボード、それに打ち込みまでも駆使しながら多彩で祝祭的、それでいながら哀愁も感じさせる伝承曲を現代的な感覚で演奏しています。イスラム原理主義が台頭しつつあるトルコ国内で、少数民族の曲を演奏することの政治性を意識し、それに対する抑圧や矛盾を指し示しながらも、抑圧に対する抗議に声を荒げたりせずに、むしろ現代的な演奏を通して民族間の友愛を体現しようとする彼らの姿勢は本質的にはラジカルなものなのでしょうし、事実として彼らのPVが放送禁止になったり、コンサートの開催が許可されなかったりと彼らを取り巻く環境は厳しいものがあるようです。しかし、そういった中での民衆の秘められた力を表現することで、自由というものの意味を考えさせてくれるようなアルバムのような気がします。楽しく美しい音の数々の中に込められた「悲しみ」というものを感じさせてくれるような気もします・・・。

試聴音源はこちらから
http://www.kalan.com/scripts/album/dispalbum.asp?id=3998

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不条理音盤委員会 257 Manuel Iman 「Legacy」
- 2006/01/01(Sun) -
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Web Radioで流れていたのをきっかけに購入したCDは少なからずありますが、このManuel Imanという人の「Legacy」という作品もそういった偶然に出会った作品です。Manuel Imanはスペイン・セビリア地方出身で現在はLAに居住しているギタリストで、そのキャリアは30年近くなるようです。その間に自身のグループでの活動は言うまでもなく(と言っても未聴ですが・・・汗)、スペインを中心としたアーティストのプロデュースやテレビ関係での音楽制作といった分野でも活動していたようです。この2000年に発表された「Legacy」は彼としては4枚目にあたるソロ名義でのアルバムで、インド音楽をベースに様々なジャンルの音楽を組み入れた一種のエスノ・フュージョン的なサウンドなのですが、彼の爪弾くギターの柔らかな音がヒプノティックな心地よさを伴ってくる快感を覚えてくる仕上がりになっています。ブルース・ハープに導かれてインド歌謡的な旋律をManuelが渋く歌う異色のミシシッピー風ブルースの「The Jewel」から始まり、レゲエのリズムとズークっぽいガール・コーラスをミックスした「Tell Me How」、フラメンコとインド伝統歌曲を融合させた「Holy Cloths」、アンビエントなシンセの使い方やリズムの絡ませ方がEnigmaを連想させる「The Human Heart」、割とストレートにインディ・ポップをダミ声のヴォーカルで聴かせる「Oh Heart!」、リンガラとガーナ周辺のマリンバ系アンサンブルを合体させたような「Awakened」、ニュー・エイジ的な音使いがこちらはDeep Forestっぽい「Fortune Sound」「The Giver」とカラフルに彩られたアレンジのインド歌謡が続くのですが、どこかほのぼのとしたムードが漂うアルバムとなっています。何故Manuel Imanはこういった試みにチャレンジしたのかは不明なのですが(滝汗)、インド歌謡本来の濃密な要素が適度に薄められて他の音楽の味つけをされているという点が、さほど嫌味にも感じられず、また理屈っぽいイメージではなくごく自然にシンプルな感じでアレンジされているので個人的にはかなり面白いという印象がありました。

試聴音源はこちらから
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0000C238B/qid=1135952823/sr=8-2/ref=sr_8_xs_ap_i2_xgl15/503-0434977-2303939

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不条理音盤委員会 256 Martin Carthy 「Right Of Passage」
- 2005/12/26(Mon) -
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ブリティッシュ・フォークに独自のチューニングとギタースタイルを持ち込んだことや、Fairport Convention、Brass Monkey、Steeleye Spanといった割とロック寄りの方面での活動も知られているMartin Carthyが1989年に発表したアルバムが、この「Right Of Passage」です。トラッド曲・オリジナル曲を問わず多様なアプローチを試みているのはさすがとしか言いようがなく、優れた腕前のギター・ワークと共にモノトーンに統一された音作りのアルバムになっています。友人のSSWであるLeon Rosselsonがフランスの子供向けのお話にインスピレーションを得たというほのぼのとした感じのフォーク・ソング「The Ant and the Grasshopper」から始まり、イングランドのトラッドの「Eggs in Her Basket」、ギターではなくマンドリンを手にしたMartin CarthyとJohn Kirkpatrickのメロディオンの掛け合いが楽しい「A Stitch in Time」「The Sleepwalker」、アコ・ギで爪弾かれるシンプルなメロディーが心を打つアイリッシュの古い舞曲の「McVeagh」、「Hommage à Roche Proulx」、彼が愛読しているE..E.Cummingsの詩にモーツァルトのメヌエットのメロディーをのせ、Dave Swarblickが表情豊かなフィドルで彩りを加える「All in Green」、トラッド感覚あふれるギター・ストロークの「Company Policy」、カナダのケベック州のフィドルで演奏される伝承曲をアコ・ギで再現した「La Cardeuse」、力強く厚みのある音に彼にしては珍しく感情をこめた熱い歌い方が印象に残る「Bill Norrie」、弦の上を指が滑る音も鮮やかな「Cornish Young Man」、ブルターニュのパイプ・チューンに17世紀に書かれたという詩をのせ、Chris Woodのフィドルがまさにバグパイプ風に響く「The Dominion of the Sword」まで味わい深い作品になっています。朴訥で突き放したようなMartin Carthyの歌い方は好き嫌いが分かれそうですが、聴きなれると不思議に心が和らいでくるような気もします。

試聴音源はこちらから
http://www.mp3.com/albums/154258/summary.html

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