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不条理音盤委員会 620 Jan Garbarek Group 「Wayfarer」
- 2009/03/28(Sat) -
もう、終わってしまいましたが、国営テレビの土曜時代劇に男装して謎の剣士に扮している栗山千明さんを見て、GOGO夕張とかぶっているじゃん!と思った片桐といいます。と、いうか栗山さんが映画に出るとどのキャラも何となく同じような気がするのですが、やはり「死国」のラスト・シーンが印象的だったので、滝を見に行くとその辺の沼から沙代理が出てくるんじゃないかとちょっとビクビクします。出てきてくれれば、それはそれで嬉しいのですが。。。

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と、いうわけでECMを代表するアーティストと呼んでも差し支えないと思われる(自信なし)、サックス奏者Jan Garbarekさんの1983年のアルバムです。ジャズ云々というよりは時々ECM系の音が無性に聴きたくなるような瞬間がありますが、ここで片桐が言うまでもなくJan Garbarekさんのサックスを中心にBill Frisell(Guitar)、Eberhard Weber(Bass)、Michael DiPasqua(Drums、 Percussion)といった浮遊感を強く感じさせながら、静かに押し上げてくるような独特のせめぎ合いのような演奏が繰り広げられていきます。
静謐な中からギターとサックスが浮かんでは消えてくるような波のごとき演奏を展開していく「Gesture」、 ロマンティックなサックスのフレーズから一転して緊張感あふれるセッションに移行する「Wayfarer」、ちょっと不穏な雰囲気を漂わせたEberhard Weberのベースが印象的な「Gentle」、サックスとギターが微妙にフリーキーに暴れる「Pendulum」、中東を感じさせるエスニックなサックスのフレーズが鳴り響いた後に、ムーディーな展開をみせる「Spor」、やはりサックスのブロウが弾ける中で、その他の3人のスリリングなインター・プレイが満喫できる「Singsong」まで、透明感と緊張に満ちあふれた演奏ながらもどこか不安げに感じてしまうような一枚のような気もします。
どこがどうというわけでもありませんが、Jan Garbarekのサックスの音はどこか人の心を見透かしているように深遠な響きを伴っているようです。それにまとわりつく如きBill Frisellのかきむしるようなギターにしろ、自己主張の強いEberhard Weberのベースといい、どこか聴く者の心の陰影を炙りだすような音ではないかという印象があります。

「Wayfarer」の音だけ。。。




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不条理音盤委員会 606 Aziza Mustafa Zadeh 「Dance Of Fire
- 2009/02/10(Tue) -
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アゼルバイジャンの名ピアニストVagif Mustafa-Zdehさんとその妻の卓越した民謡歌手だったElaizaさんの娘さんであるAzizaさんの3枚目のアルバム「Dance Of Fie」。
Al Di Meola (G)、Bill Evance (Sax)、Stanley Clarke(B)、Omar Hakim (Dr)といった錚々たるメンバーを引き従えて制作されたこのアルバムはまさにラテンとクラシックと伝統が混淆したアマルガム的な音が豪華な一枚になっている。どうしても、こういった傾向の音になるとすぐにヨーロッパ的ではないとかアメリカ的ではない、という声が聞こえてきたり、またアクが強いとかいう批判も見受けられるのですが、そもそもそういった語法でのみジャズを聴くというのは本当に音楽の面白さを味わっているのだろうか?と疑問すら覚えてしまうのであって、まさに植民地主義&帝国主義丸出しのスノッブぶりには苦笑するしかない。
アルバム・タイトル曲「Dance of Fire」は4つの組曲形式で構成されていて、ペルシアの古典音楽を連想させるフレーズが滑らかに奏でられる「BoomerangからAl Di Meolaさんのアンダルシア風のアコ・ギをフューチャーしたイベリア半島寄りを想起させる「Dance of Fire」、艶めかしい中近東ムードに満ちた「Sheherezadeh」、激しいタッチのピアノがイタリアン・バロックを思わせながらも、やはりアコ・ギはルンバ・フラメンコに走るといった「Aspiration」という「イスラムの拡散と浸透」という世界史の授業を思わせるような音楽絵巻に仕立てあげられている。12分以上の「Bana Bana Gel (Bad Girl)」ではAzizさんのヴォーカルや各人のソロもたっぷり聴かれるジャズ・ロック風、サックスがメロウな歌メロを奏でる「Shadow」、美しいスキャットも楽しい心弾むような「Carnival」、ちょっと翳りのあるような雰囲気のある「Passion」、スペインと中近東の混淆といった「 Spanish Picture」、不安を予測するようなイントロからロマンティックなメロディーが矢継ぎ早に繰り出される「To Be Continued」、父のVagifさんをイメージしたのか、クリアーなピアノの響きを生かした「Father」まで独特の陰影感のようなものを含んだ音世界が拡がっていく。控えめながら堅実にサポートする名手たちも含めて、このアルバムからはどこかユートピア願望のようなものを覚えてしまうのは気のせいだろうか?それは出自に由来するものなのかもしれないのだが、いくつもの異なった文化的な基盤を彼女なりに融合させたものを提示して答えを求められているような気がする。多様性の容認ってこんなものじゃないの?と。。。ま、それはこっちの勝手な妄想なのであるが、ジャケットの彼女の視線からはちっぽけな自分が嘲笑されてしまっているような気になって仕方がないのである。

「Bana Bana Gel」をソロ・ライブで演じた映像。。。。



試聴音源はこちらから
http://www.amazon.co.uk/Dance-Fire-Aziza-Mustafa-Zadeh/dp/B000025TSF


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不条理音盤委員会 573 Gamelan X 「Satu」
- 2008/05/26(Mon) -
身内のネタでイントロを作る片桐と言います。
片桐のアシスタントの美由紀ちゃんは発作的に意味不明のことをするのですが、ある朝、旦那が起きてきた時にふと、「いつもと違う感じでおはようって言ってみよう」という気になったらしく、思いきりにこやかな表情(+作り笑い)で目を輝かせて「おはよぅ」って言ったら・・・何故か旦那はうろたえて「すまん、付き合いは程々にするから許してくれ~~」と謝ったそうな(爆)。普段と違うことを女房にされると疚しいところを衝かれたような気になってしまうのが悲しいところなのでありますが、こういったところにも夫婦の間の深い断絶が存在しているものだとつい自分も反省してしまいました。

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と、いうわけでカリフォルニアを中心にパフォーマンス活動を展開しているGamelan Xのアルバム「Satu」です。ユニット名のとおりガムラン・ゴング奏者2名を中心にホーン隊やリズム隊、ヴァイオリンや鍵盤奏者、それにダンサーも加えた大所帯のユニットでパフォーマンスの際は多少メンバーの出入りもあるようなのですが、どうも彼らはファミリー・ネームからは東欧系の移民に出自があるような気がします。演っているのはバルカン半島や中近東、アフリカの音楽とジャズを結合させたいわゆるエスノ・フュージョン・タイプで、そこにはちょっとクレズマーっぽい印象もあるのですが、それが意識的なものなのかどうかはちょっと不明です。とにかくゴングの音が軽快に響く中から聴こえてくるロマやバルカン風の旋律というのもこれまたミステリアスなもので、なかなか面白さ満点だと思います。
疾走するベースとアフリカンっぽいガムラン・ゴングをブラスが煽り立てるような「Flutter Swarm」、ビッグ・バンド風のジャズ感覚とクレズマー的な味わいをたくみにミックスさせた「Hot Corssed – Bronze」、ロマ風のサウンドが自由自在に展開していく「Hanuman’s Leap」、割と普通のジャズ・フュージョン・タッチの「Gammafaro」、インドネシアから来たアフリカにかけての音楽要素を一気に詰めこんで炸裂させた「MESFNAR」、マーティン・デニーやアーサー・ライマンといった巨匠の作品を連想させるスピリチュアルな「Spiral Flower」、幻想的なPartⅠ、モンド・ラウンジ的なPartⅡ、ミニマルな要素をふんだんに使ったPartⅢと3部に分けられた「Mirage」、ガムランをエレクトロニカ的に解釈した「Particle」、バルカン風のメロがダブ的に処理された「Unfuling」、中華+インドネシアといったインチキ風のアジア解釈も楽しい「Cuneiform」まで、結構無茶苦茶やっているようなのですが、そのぶち壊れ方がいかにもアメリカン・ライクな陽気さいっぱいでついつい笑顔がほころんでしまう片桐なのでありました。

PVなんぞがyoutubeにあったりする……(-。-) ボソッ。


彼らのHPから試聴できます。
http://gamelanx.com/x/
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不条理音盤委員会 499 The Doppler Trio 「THE DOPPLER TRIO」
- 2007/04/24(Tue) -
ある町のパン屋さんの話なのであるが、その店は町の特産品を練りこんだパンが好評であり、町の観光協会のHPやら、その地域周辺のグルメガイドには必ず紹介されているほどに知名度が高いらしいので、近くに行ったら立ち寄ってみようかとかなり前から気にはなっていたのが、先日ちょっとした所用の折に念願かなってその店を訪れることが出来た。喫茶コーナーも併設されているレトロな雰囲気も漂うその店は、老舗らしくパンそのものも懐かしさを覚えるような味で、ブレンド・コーヒーもこれまた古えのヨーロピアン・ブレンド風のちょっと酸味がきいた香り高いものであったのだが、片桐的に特筆すべきと思うのは、そんな雰囲気を一身に背負いながら山口小夜子+山口美央子といったたたずまいで、長くて真っ黒のストレート・ヘアーに何故か全身黒づくめのゴシック・ファッション+シルバーのアクセサリーという、これまたちょっと謎めいた感じのミステリアスなムードをまといながら、珈琲のおかわりをすすめてくれるという店の女性で、流れているモダン・ジャズもまたタイム・スリップしたような感覚を更に倍増させてくれるという、そういったあらゆる面を含めてまた通いたくなってしまうような店が一軒増えてしまったというわけである。

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というわけで、ジャズ方面はまったく疎く素人当然の片桐なのであるが、毎度の如くチェックしているCD Babyで「Thelonious Monk goes to Macedonia on a Klezmer driven spaceship」というコピーに誘われて試聴して気に入ったのがこの「The Doppler Trio」なるサン・フランシスコ出身の3人組のセルフ・タイトルのアルバムである。Erik Hoagland(Sax)、Brandon Essex(Bass)、Brian Carmody(Drums)の紡ぎだす音がジャズに詳しい人はどのように受け止めるのかは知らないが、バルカン音楽好きな者にとってはかなり楽しめる一枚であり、本人たちが影響を受けたアーティストとしてMy spaceで語っているとおりAlbert Ayler, Art Blakeyといったジャズ界の大御所に並んでSquare Pusher、AFX Twinといったクラブ系のアーティストや, AC/DC、Motley CrueといったHR/HM系のバンド、勿論Django Reinhardt, Goran Bregovic、Kocini Orchestraの名前を挙げていることから、純粋なジャズ畑からのアプローチというよりは、元々雑食主義的な性格をもったユニットではないかと推測される。無論モダン・ジャズとしての基本を踏まえたうえでのことでの遊び心というべきか、バルカン半島の変拍子舞曲をジャズの文脈にのせたうえであえてタイトルを「Sneaky Dan’jou」としたり、クレズマー的なメロをマリアッチ風のアレンジで演奏した「Texiacan Mango」と一ひねりも二ひねりもあるような曲には心が躍ってしまうような楽しさが含まれており、また誰でも知っている「Dark Eyes」をクラブ・サウンドに翻訳したかのような音作りや、本来ポルカに近い「Korobochka」をスカっぽく演ったりとまったくもって一筋縄ではいかない連中のこのアルバムが万人に薦めたくなるような一枚であるのは確かである。とはいうものの無知な片桐がいくら語ってもあまりに説得力に欠けるので下記のリンク先で試聴していただきたい。それで気にいったとなれば、このアルバムどういうわけかi TunesでDL出来るのである。。。。。

試聴音源はこちらから
http://www.myspace.com/thedopplertrio
http://cdbaby.com/cd/dopplertrio




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不条理音盤委員会 495 Panorama Jazz Band 「Panoramaland」
- 2007/04/17(Tue) -
奥州ではちょうど桜が満開ということもあって、各地で桜まつりの名目で大々的にイヴェントが開催されていたりして、、綺麗な桜並木を見ているとやはり心が和んだりする一方で、同時にそんな時には出店で串焼きやら焼き鳥を食べてしまって妙な幸福感を味わったりもするというまさに一石二鳥の如き春の日々をダラダラと過ごしているのではありますが、自分の家の前の県道が上下方向ビッシリ渋滞していて、家にたどり着けないので車をはるか彼方の役場の駐車場に停めて徒歩で帰宅している片桐と言います。
というわけで、世間ではここ十年来もっともエキサイティングなニュー・オリンズ系ジャズ・バンドとして評判が高いPanorama Jazz Bandが2005年に発表した2ndアルバム「Panoramaland」です。

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クラリネット奏者のBen Schenckさん率いるこのバンドは、ジャケットに象徴されるとおり伝統的なニュー・オリンズ・スタイルにバルカン半島やら、クレオールやらカリブやらの要素をミックスさせた演奏を繰り広げているのですが、おそらくこの根本にはいわゆるユダヤ系の音楽クレズマーの存在もあるのでは?などと推測されるのですが軽はずみなことは言えませんね(滝汗)。何はともあれアコーディオン(この楽器が使われるのはニュー・オリンズでは稀ですが。。。)、クラリネット、トロンボーン、バンジョー、チューバといった楽器が入り乱れながら一種の祝祭的な風景を「ごちゃまぜ感」いっぱいに表現しています。楽しげにスイングしていくさまが目に浮かぶような典型的なスタイルの「Jungle Blues」「Some of These Days」、Martiniquan Sam Castandet et son Orchestre Antillaisの演奏がオリジナルのマズルカ・クレオールの「Pani Ti Moun」、クレズマーっぽい雰囲気の「Ai Raci Ku Ne Draci」、バルカン半島の伝統舞曲のニュー・オリンズ的解釈ともいえる「Alievo Oro」、Jane Harvey Brownの軽やかなヴォーカルも楽しい「Don’t Touch Me Tomato」、カリブ海風の優雅なワルツ曲「Carmencita」、メキシカン・ポルカの「Five Alarm Chili」「El Zopilote Mojado」、アコーディオン担当のPatrick Farrellがケベック旅行中に思い浮かんだ美しいメロの「Heartsick Hora」、Yiddish swingのテーマ・ソングとして大ヒットしたらしいJane Harvey Brownのヴォーカル曲「Bei Mir Bist Du Schoen」、ゲスト・トランペッターとして参加したオオハシ・サトル氏の吹きっぷりも見事な、言わずと知れた超有名曲をマーチ風にアレンジした「Bolero」、Naftule Brandwein作曲のクレズマー風ナンバー「.Wie Bist Die Gewesen Vor Prohibition」、Ben SchenckとJaneのデュエットも微笑ましい「If You Love Me」、悲しい恋の話を題材にした哀愁漂うメロが印象的な「Lihnida Kajce Veslase」、マルディグラの演奏を後日スタジオで編集したまさに彼らの真髄を垣間見ることができる「Renee」まで、まさに彼らのいう「人を踊りさせたくなる」というエッセンスが十分発揮されたアルバムになっていると思います。そんな陽気さの連続の中に瞬間的に挿入された哀愁感があってこそ、その輝きは増していくのでしょうが。。。

試聴音源はこちらから
http://www.panoramajazzband.com/

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不条理音盤委員会 405 BAROQUE JAZZ TRIO 「BJT」
- 2006/08/05(Sat) -
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おいでやす、似非京都人の片桐どす。
せんぐりマニアックな音盤ばかりでいけずやなぁ~と思ってはる人も多いのは承知でありんす。と前置きしながらも、またもやこれはマニアックで反則技の一枚なのでありんす。ハープシコード奏Georges Rabo、パーカッション奏Phillippe Combelle、チェロリストのJean Charles Caponのお3人さんからなるこのユニットは、インド風味のエスニック感覚とバロック調の荘厳な雰囲気を兼ね合わせたスピリチュアルなサウンドで、1970年にフランス・サラヴァレーベルからの発表当時以来から、その唯一無二の音世界で高い評価を受けはったようどす。ま、ほな、言われても所詮未熟者にとってそないな評判など知る由もなかったのどすが、世間様ではお洒落と噂されている「カフェ・アプレミディ」にこのアルバムからの1曲が収録されはったのを機会に、何やら世の中の復刻リリースに便乗しはってめでたく国内でも発売されたのでありんす。オリエンタルなジャズ・サウンドいうても、それこそ星の数ほど仰山あるんどすがハープシコードがメインのメロを奏ではるちゅうだけで、このアルバムがいかに反則なのか理解ってくれはるでしょうか??
タブラが打ち鳴らされ、ハープシコードもインド風にビンビン響かせる「Dehli Daily」、なにやら不思議としかいえない音響工作的な「Terre Brulée 」、アシッドでラリったErik Satieのようなトイトロニカ風の「Chandigardh」、めくるめくリズムが刺激的なラテン・ジャズの逸品「Latin Baroque」、ナイを意識したようなフルートに導かれてブレイク・ビーツにも通じるサウンドが展開される「Zoma」、R&Bを下地にしたレゲエ的な感覚の「Caesar Go Home」、秘教的なムードすら漂う「Orientasie」、明るいチェロのメロディーの背後でラグ・タイム風にハープシコードが暴れまわる「Largo」までテンションの高い音の響きには鳥肌がたってしもうてしゃあないどすが、スピリチュアルでバロックのえらい優雅な響きにはわやくちゃかなわんのどす。

試聴音源はこちらから
http://www.alapage.com/mx/?type=3&tp=F&donnee_appel=CHRONI&DIQ_NUMERO=870025

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不条理音盤委員会 354 Pat Metheny & Lyle Mays
- 2006/04/26(Wed) -
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今回は何故か池波正太郎氏風の文体で。。。。
雲ひとつない晴れ渡った日に、このようなモノクロームのジャケットの作品を聴くとは不遜に思われそうなのだがこの「As Falls Wichita, So Falls Wichita Falls」というアルバムが無性に聴きたくなるときがある。名義はPatとLyleになっているのだが、実はパーッカションやらヴォイスを担当するNana Vasconcelosも大抵のところで参加しているのだから実際はトリオ編成といっても差し支えない。Pat Methenyの故郷であるWichitaの思い出やイメージを表現したらしいのだが、そういった理屈を抜きにしてもどこか心が安らぐような温かみを感じる。音を奏でながらそれぞれの美的なセンスが同調して、そこから生まれてくるリリシズムのようなものが不思議な感触を呼び起こすのである。まさにジャケット通りの雄大で広大なイメージを持つ曲は様々な感情を内包しているのであるが、物語性を帯びたサウンドが展開される中で要所できっちりと自分をアピールさせたように音を響かせるNanaとLyleのプレイは決してPatのギターを邪魔するわけではなく、そこからは3人が緊密に語り合いながらお互いの音を紡ぐという姿勢がはっきりしているような気がしてならず、いみじくもタイトル曲に明白なように決して聴くものに緊張感を強いないのがまた素晴らしい。また「Ozark」のピアノ・プレイのように難易度が高い曲をテクニックをひけらからすことなく、さらりと弾いてしまうLyleに寄り添うようなPatのアコギというのもまた深い味わいを抱かせるものである。陰影に富んだ表情で淡々と綴っていく「September Fifteenth (dedicated to Bill Evans) はサブ・タイトル通りにBill Evans氏を偲ぶ内容に聴こえるのだが、即興的に展開される中で二人の呼吸がピタリと合っている様は感嘆せざるを得ない。こうした静謐な中にはスリリングさも感じられるが、それよりもそんな淡い色合いの中での二人のごく自然体な姿が浮かんできてしまい、Bill Evans氏には失礼なのであるがつい和んでしまうのである。どこかほのぼのとした牧歌的なメロディーから快活なPatのギター・ソロに続く「It’s For You」でも、音色には最新の注意を払っているようなのだが、流れてくる音にはそういった神経質的なものは微塵も感じられず、ただただ心地よさが増すだけというのは言いすぎであろうか。Nanaの朴訥とした歌を聴くことができる最後の「Estupenda Grasiaに至るまで、このアルバムは終始穏やかさが際立っている。個人の心象風景であるからと言い切ってしまえばそれまでなのであるが、単に描写しただけではないのだから本来であれば激しさも含まれてよい筈であろう。それをあえてしなかったところにこのアルバムの良さがある。仰々しく飾り立てるよりも、時には素に近いほうが人の心を打つという場合がままある。このアルバムはそういうアルバムなのだ。
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不条理音盤委員会 288 Boris Kovac And La Campanella
- 2006/02/03(Fri) -
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セルビア北部のヴォイヴォディナ州ペトロヴァツ出身のサックス奏者Boris Kovacが新バンドLa Campanellaを率いて発表した作品がこの「World After History」です。彼の音楽の前提としてはジャズがあるのでしょうが、そうした素養をベースにタンゴ、ビギン、ワルツ、スウィングといったノスタルジックな表情のダンス音楽をバルカン~ラテン/地中海風味のアンサンブルでくるんだこの作品は派手さというもののはないのですが、流れ出てくる音のどれもが湿った叙情に彩られているように感じます。寂しげながらも凛とした音のサックス・ソロから始まる「An Intro Trip」、小粋なセンスを存分に味わえる「Latina」、呟くようにしわがれた声でBolisが歌うシャンソン風の「To Entertain You」、タンゴとビギンの折衷のようなユーモラスな曲調の「Limping Waltz」、エレガンスな雰囲気あふれる「Malena」、クレズマーに通じる感覚の「Crazy Love Waltz」、メランコリックなメロディーが逆の心の奥を温かくさせてくれるような「Dukeland in Your Heart」、東欧風のリズムとフラメンコ調のギターが交錯する「Beguine Again」、懐かしい感じのメロディーをやはりBolisが囁くように歌う「Argentina」、バルカン色が濃く、このアルバムの中では一番ポップな感がある「Dur AA」、静かなギターのアルペジオに導かれて、サックスが切ないメロディーを奏でる「Triesta」まで、アルバム全体がセピア色の写真のようなモノクロームな雰囲気で統一され、そのシンプルなトーンに耳の照準が合えば、一歩一歩静けさに歩み寄ってついにはアンビエントな音の世界と同化してしまうような、そんな錯覚すら覚えてしまう作品に仕上がっているという印象があります。
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不条理音盤委員会 283 Kyle Eastwood 「Paris Blue」
- 2006/01/29(Sun) -
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このKyle Eastwoodの「Paris Blue」は雑誌の新譜欄で紹介されていて気になっていました。名前から推察されるとおり、映画俳優のClint Eastwoodの息子であるベーシストの彼は、グルーヴィーでクラブ向けのプレイとオーソドックスなプレイの両面を兼備するプレイヤーではないかと思います。未熟者にとってこの作品での彼の作り出す歌心あふれるメロディーは緊張を強いられることもないリラックスした雰囲気を感じるのですが、その一方でテンションそのものは非常に高く、また洗練された心地よい音が流れてくるという意味で、ナチュラルなセンスに裏打ちされた音のエッセンスが凝縮された作品に仕立て上げているという印象があります。縦横無尽に駆け回るKyleのベースが父親のClint Eastwoodの口笛との掛け合いを聴かせる「Big Noise」、ピアノとサックスの官能的なメロディーが印象的な「Marrakech」、アシッド・ジャズ風のリズムの上を歌メロが自由に舞う「Muse」、どこかで聞き覚えのあるようなサックスのメロとウッド・ベースの重厚な響きが耳に残る「Le Pont Royal」、ゆったりとしたサックスの歌メロの「Solferino」、テープ・ループのようなグルーブ感あふれるリズムの上をサックス、トランペットが交錯する「Cosmo」、やはりクラブ風ビートを基盤としながらも、都会的な香りがするAOR風の「Paris Blue」、オリジナルよりもダブのエッセンスを加味し、ハンド・クラップやティンバレスも付加されて、ダンス・ナンバーに変貌した「Big Noise - (remix)」、同じようにヒップ・ホップ風のリミックスが施されて、より官能的な部分を強調したかのような「Marrakech - (remix)」までイマジネーションに富んだソリッドで切れ味鋭い音の数々が流れ出てくる作品だという感があります。当然のことながらボトムを存分に効かせたKyle Eastwoodの腰の据わった骨のあるベース・プレイもまた聴きものの一つです。

試聴音源はこちらから
http://www.mp3.com/albums/20063000/summary.html

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不条理音盤委員会 171 Herbie Hancock 「Future Shock」
- 2005/08/20(Sat) -
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80年代の代表的な音としてはサンプリングによるオーケストラ・ヒットと、アナログ盤をこすって音を出すというスクラッチの2つが挙げられます。スクラッチの創始者が誰かという問題は論争があるようですが、82年のMalcom McLarrenの「Buffalo Gals」で既にスクラッチ音は聞かれますので、やはりこの曲のプロデューサーのTrevor Horneが最初ではないかと思うのです。しかし、何といってもスクラッチが市民権を得たのがHerbie Hancockのこのアルバムに収録された「Rock It」でしょう。片桐真央があらためて指摘するまでもなく、Herbie HancockというピアニストはMiles Davisによってエレクトリックの道を開眼させられ、それ以降「伝統と前衛」「アコースティックとエレクトリック」という相反する要素を軽々と越えて作品を発表している人です。このアルバムはGodley & Crèmeが手がけた「Rock it」のPVとの相乗効果もあって、Hip Hopの分野では最初に売れたアルバムとのこと。「娘がはじめて自分の音楽に興味を持ってくれた!!!」とHerbieが喜んだというおまけつきです。
→→ とはいうもののやはりこのアルバムのメインはHerbie Hancockではなく、Grand Mixer D.STのスクラッチでしょう。打ち込みサウンドとターンテーブルが思いっきり出てくる当時としては非常に先鋭的な音作りは、NYで鍛えたBill LaswellのセンスとMartin Bisiの立体的なミキシングによるというまさにアイデアと編集の勝利ともいえます。Bernard Fowlerが歌う曲は中途半端なファンク系打ちこみでがっかりした記憶もあります。Anton Fierも従えたRock It Bandの84年の「LIVE UNDER THE SKY」ではHerbie HancockよりもGrand Mixer D.STが全面的にフューチャーされ、かなりエスニックな要素が強いパフォーマンスでした


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不条理音盤委員会 168 Keith Jarrett 「Spirits」
- 2005/08/08(Mon) -
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文字通りKeith Jarrettという人の「精神」を表現した2枚組アルバムです。幾つかの種類のリコーダーや笛類、ギター、パーカッションそれにピアノを駆使して作り上げたアンビエントな音響世界なのですが、決して「癒し」という安直なものではなく、そこにはKeith Jarrettならではのピンと張りつめたような緊張感が漂っているように思えます。それは音楽というものに対して真剣に向かい合った上での彼なりの解答なのでしょう。「そこには救いがあり、流れ出してくるもの、充実しているものがある。それは決して豊かであるとか、音楽的であるとかいうことではない。このことについて私はこういう言い方でしか語れない。」と彼自身が語っているように、「音楽とは何か?」と自身に問いかけた時に心の中に浮かんだものを具象化したものなのではないでしょうか?それでは何故ピアノではないのか?という疑問も出てくると思います。元々彼はリコーダー類を好んで吹くというのは知られていると思いますが(オラシオさんのオラシオ主催万国音楽博覧会によれば、リハーサルで隅の方でずっと吹いてたり、ステージに出て行く前に袖で吹いて精神統一したりしていたそうです)、このアルバムでほぼピアノから離れた理由を独断と偏見で推測してみると、一つは自分の表現の可能性を追求してみたかったということ。もう一つはそうやってピアノを使わないことで、改めて自分の原点を見つめなおしたという点が指摘できると思います。個人的にはこの「Spirits」というアルバムはKeith Jarrettのセルフ・セラピー的な意味合いを含んでいると考えているのですが、流れ出てくるようなメロディーの多くが生き生きとしているのは、そういった心情の発露のような気がしてならないのです。

上述のオラシオさんのオラシオ主催万国音楽博覧会ではこのアルバムに関して的確なレビュー&詳細な解説がされています。当然そちらの方が十分有益なのは言うまでもありません(謝X100)。
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不条理音盤委員会 167 Miles Davis 「Bitches Brew」
- 2005/08/05(Fri) -
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Jazz未熟者の片桐なのですが、全然聴かないというわけではなく断片的に、そして直感的に選択したアルバムは少なからず持っているのです。
というわけでMiles Davis 「Bitches Brew」です。ジャズであり、、ロックであり、ファンクであり、エスニックであり、エレクトロニカであるという形容詞すら不要のこのアルバムはMiles Davisを筆頭にSteve Grossman(sax)、Joe Zawinul(el-p)、Chick Corea(el-p)、Hervie Hancock(el-p)、Dave Holland(b)、Jack DeJohnette(ds)、Billy Cobham(ds)、John Mclaughlin(g)といった綺羅星の如きアーティストがテクニックとエネルギーを惜しみなく注ぎ込んだ超刺激的な音像の集合体です。暴れまくるリズム隊の上を駆け巡るピアノ、流れるようなギターのフレーズ、そして何気なくリフを決めるMiles Davis・・・・。このアルバムの評価でよく「ロックとジャズの融合」とか「フュージョンの原点」とかいう記述を見かけるのですが、個人的にはここで聴こえる音は紛れもなくピュアで自由な精神に基づいたジャズだと思うのです。(Jazzの定義は抜きにして・・・)。複合的なリズムと混沌と調和が紙一重のフリーなそのスタイルは、夜空に炸裂する何発ものスターマイン・・・そういった印象があるのです。
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不条理音盤委員会 161 Muriel Zoe 「Neon Blue」
- 2005/08/01(Mon) -
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ドイツ出身の女性シンガー&ギタリストMuriel Zoeの2ndアルバム「Neon Blue」です。このアルバムの制作プロセスに関しては「オリジナル曲とスタンダードの間で正しいバランスを保つのがいつものチャレンジ!」という彼女自身の言葉通り、冒頭のCole Porterの「It's alright with me」から始まるカバー5曲にオリジナル曲が組み合わされた正統的なヴォーカル・アルバムになっています。控えめで落ち着いた演奏と低音域ながら温かみを感じさせるMuriel Zoeの歌声がまさにジャズっぽい雰囲気を醸し出しています。アンニュイ感覚の「Have A Good Time」、スローな「Neon Blue」、ギターのカッティングが小気味よい「I should have known better」、ギターの弾き語り「Body And Soul」、ちょっとスイングしている「Ring Of Fire」、ストリングが効果的に配された最後の曲「Lullaby」までシンプルなアレンジながらも、ミュートしたホーンの絡ませ方やギターの和音がひねくれているという凝った部分も感じられる一方で、そんな音の配列の中をするりと泳ぎぬけるように、そして語りかけるように歌うMuriel Zoeの声を堪能できる作品だと思います。個人的にはこの夏一押しです(笑)。

Line-up
Muriel Zoe - vocals, acoustic guitar
Matthias Pogoda - acoustic & electric guitars, wurlitzerl
Michael Leuschner - trumpet, fluegelhorn
Johannes Huth - bass
Michael Verhovec - drums, percussion

試聴音源はこちらから
http://www.amazon.de/exec/obidos/ASIN/B00083D55G/qid=1122821267/sr=8-1/ref=sr_8_xs_ap_i1_xgl/028-5104855-2238927

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不条理音盤委員会 160 Beady Belle 「Closer」
- 2005/07/30(Sat) -
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Beady Belleはノルウェー人女性シンガー Beate Lech と ベーシスト Marius Reksjø のユニットです。所属しているJazzland は最近ジャズ方面で話題になっているレーベルなのですが、このユニットは基本的にジャズサイド側からのクラブ・シーンへのアプローチと言うべきでしょうか、打ち込みのリズム・トラックに清楚な女性ヴォーカルが被るといった類型的なものでした。「Home」「Cewbeagappic」も決して出来が悪いわけではないのですが、どこかBeate Lechのキャラクターと雰囲気で勝負しようとしたのか、中途半端な印象が強かったです。しかし今年になって発表された3rdアルバム「Closer」ではレーベル総帥のBugge Wesseltoftも参加して(1曲だけですが・・・)、ミディアム~スローな曲をメインに、かなり艶っぽさを増したBeate Lechの歌を聴かせるエレクトニカ・ジャズのアルバムに仕上がっています。いかにもクラブを意識した「Goldilocks」「Nevermind」、落ち着いた深い響きのピアノと歌声が交錯する「Airing」、打ち込まれたドラムの音が不安感を煽りたてるような「Closer」、ラテンの香りがする(似非ボサノバっぽい??)「Irony」というように、ややもすれば単調になりがちなBeate Lechの歌をカバーするように凝ったアレンジが施されていたり、一部の曲でのエレ・ピとホーンの絡みが耳を刺激するというように隅々まで心配りされたアルバムだと思います。アルバム全体が北欧の空気のように冷ややかななのは言うまでもありません(褒め言葉ですよ・・・・笑)。

試聴音源はこちらから
http://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=1083143

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不条理音盤委員会 146 Saskia Laroo 「It's Like Jazz」
- 2005/07/14(Thu) -
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Saskia Larooはオランダ出身の女性トランペッターです。当然のことながら美人なのは言うまでもなく、トランペットのみならずサックスやベースも演奏する才女でもあります。彼女は80年代前半から活動を開始していたようですが、その詳細は不勉強ながら知りません(汗)。1994年になって自分のレーベルLaroo Rrecordを立ち上げて発表した1stアルバムがこの「It's Like Jazz」です。本人曰くAcid Jazzらしいのですが、そのヒップ・ホップやファンク、そしてカリビアンな要素を取り入れたサウンドは、クラブ向けのAcid Jazzに似て非なるもので、より肉体的な躍動感を感じさせる音作りになっていると思います。Herb Alpertを思わせるフュージョン風の「Ya Know How We Do」に始まって、ファンク色が濃く、Candy Dulferの父であるHans Dulferもアルト・サックスで参加した「If ye get it ye got it」、ラップも入ったアルバム・タイトルにもなっている「It's Like Jazz」、ハウスっぽいビートにのった「Poocee (the black & white monster)」、ゲスト・ヴォーカルのJohnny Kelvinの軽やかで爽やかなヴォーカルとチョッパー・ベースのビートが小気味良い「Jazzparty」、カリプソ~ズークの香りが漂う「Drop that Horn」、ヒップ・ホップな「Where ‘re you going m ´am」と一曲一曲そのものは雑食性に富んでいるのですが、全体を支配するSaskia Larooのトランペットのフレーズが、そういったクラブ・ビートに負けずにセッションの中でしっかりと自己主張しているのでかなり気持ちよく聴くことができます。多少形式に嵌りすぎているという指摘もあるのですが、心地よいという意味では十分満足できる一枚だと思うのです。

彼女のHPはこちらから
http://www.saskialaroo.nl/index.php?id=1
試聴音源はこちらから
http://www.mp3.com/albums/374302/summary.html

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